悔しいのではない、虚しいのだ。山中の最後の2試合を振り返ってみる事は二度とないだろう。
同じ結果、早い決着、そして同じく汚れた戦い。
メキシコのサウスポー、ルイス・ネリーは東京両国国技館で、元王者の山中慎介と再戦し、残忍な2ラウンドKOで試合を制した。公式のKOタイムは1:03
無敗のネリーは日本人スターのアゴに強烈な右フックを当て、背中からキャンバスに落とした。山中はネリーの攻撃に対処できず、4度もキャンバスに崩れた。
この試合は元々ネリーのWBCタイトルの防衛戦であったが、23歳のこのボクサーパンチャーは計量失格でベルトを剥奪された。山中だけのためにベルトは賭けられていたが、元パウンドフォーパウンド10傑に入るほどの名王者にはわずかな可能性(prayer)すら残されていなかった。
サウスポーの山中は初回から倒されるも勇敢に立ち上がったが、2ラウンドに入るとネリーの積極性とハンドスピードにのった手数の前に2度ダウンし、最後は右ジャブで3度目のダウン、KO負けをした。
フィニッシュは決定的だった。
ルイス・ネリーは新たなスターの地位を確立したと言いたいところだが、山中に対する2度の勝利は問題を提起している。昨年8月の試合ではドーピング陽性を示し、今回の再戦では体重超過をした。
6年に渡り、12度もタイトルを防衛してきた山中は恐らくこれで引退だ。
前記事の多くのコメントの中に、皆さまの気持ちが書かれているので十分でしょう。試合後の山中のコメント、ネリーのコメントも正直なものだと感じました。
山中
「効いてしまったから結果には納得している。ルール違反はダメだが、ネリーは体が柔らかでいいボクサーだ。」
ネリー
「山中の目に恐怖を感じた。前回の試合の印象で畏怖していたのではないだろうか。」
というようなものだった。
例外はあっても、不完全ガイドなどを書いていて、ボクサーのピークは20代中盤~30代前半に集中している事がわかった。やはり、時計の針は止まらない。想像以上に時間の経過による両者の進化と劣化の溝は広がっていた。
あまりのスピードと迫力の違いに、別階級の試合とも、サイボーグVSヒトの戦いとも見えた一方的な試合であったが、ドーピングや体重超過の汚点を払っても
内山や山中のようなベテラン王者にとって、速くてパワフルで柔軟な若手というのは鬼門である。じっくり戦うタイプにはやりあえるが、勢いを捌ききれないというのが自分の中で明確になりました。
驚いたのは、ネリーは今後もバンタム級でやっていくつもりだという。
昨年まではSフライの小柄な選手であり、そのあたりの選手と倒し倒されの試合をしていた。ロマン・ゴンザレスと戦いたいといっていたくらいだ。相手が山中でなければ、ジルバテロールも栄養士も必要なく体重が作れるのだろう。
この選手には、今後なんらかのサスペンドが必要だ。
少し前まで、モレノを倒し、ボクサーとしての絶頂にいた山中が翌年にはこんな汚れた男に狂わされ引退。ドーピング疑惑で肩身の狭いはずのネリーは堂々2度も来日し、今度は確信犯的な体重超過。さらに「日本は好きだからまたいつか試合がしたい」とのたまう。
この図太い神経たるや何と形容しよう?
村田、長谷川という豪華解説の中で飯田さんがいい事をいっていた。
「これが、ドラマであれば、正義のヒーロー山中が悪役のネリーを倒してハッピーエンドとなるのですが、ボクシングはこれがあるから残酷で怖い」
というような言葉でした。
「神の左」山中の功績は永遠なり。
しかし、リングに神はいない。