
毎週末に注目試合が開催される世界のボクシングシーンですが、余韻冷めやらぬ間は、日本人の誇りであるこの歴史的な出来事をしばらくトップに固定しておきます。忘却の彼方に追いやるのは惜しいから。
生涯無敗で引退する王者、たった一度の敗北で消えていく王者、敗北で大事な何かを失う王者、様々なパターンをみてきたが、過去をよく検証し、最善の道を突き進んで欲しい、そんな日本史上最高傑作、井上尚弥の衝撃と感動の余韻が未だに冷めやらない。
[st-card id=70879 ]エマニュエル・ロドリゲスに対する勝利で、これまで言われ続けてきた、井上の対戦相手はみなピークを過ぎた年寄りばかりという指摘は解消された。P4Pを見直すつもりだが個人的には既に2位だった。ボクシングに新たなスタイルをもたらしたという点でワシル・ロマチェンコの地位は揺るがずだが、その想いは益々固まった。確信が持てるようになった。
初回のポイントがロドリゲスか井上かで議論されているがそれは観た者の主観による。とにかく今までの相手と違うホンモノっぷりをロドリゲスはみせてくれた。続く2回、最初にダウンを奪った左フックが試合を決めたとあるが、振り返れば2回開始早々から勝負の趨勢はみえた。
初回にプレスをかけられた井上はもう分析ができたのだろう、2回からやや前傾姿勢に変えてプレスをかけられぬよう積極的に手を出していった。スピードにのったジャブ、ストレートがビシビシとロドリゲスを捉え、この勢いとキレ、パワーにロドリゲスが心身ともに遅れをとりはじめていた。恐らく効いてもいただろう。そこから打ち合いでの左フック炸裂だが、あれは打ち合ったのではなくロドリゲスは打ち合わされたのだ。食ったら一撃で沈む、そんな恐怖の中で。
そう感じる1分20秒(2回)だった。
例の左フックはフックであってフックではない。井上の勢いに押されつつロドリゲスはきちんとブロッキングしている。普通の左フック軌道であれば右のブロックの外を叩いていたはずだ。井上はロドリゲスのガードの真ん中を左フックの態勢、構えからストレートに軌道を変えて叩き込んでいる。パヤノに対するワンツーがただのワンツーでなく独特で難解なものであるようにこのパンチも超難解で避けることの不可能なミラクルパンチだ。
https://twitter.com/i/status/1129848377967988736
この一撃で鼻血を出し絶体絶命のロドリゲスにはまだ闘志が残っていたが、続くトドメが効いたばかりの顔面じゃなくボディとは容赦ない。まさに、アントニオ・ニエベスが言う
「イノウエは情け容赦なかった」
短時間の圧勝の中にエグイほどの残忍さとスキルが詰め込まれていた。
しかしおもえば勝利は必然だったのかもしれない。ロドリゲスが前戦のジェイソン・モロニー戦でみせたボクシングは格好の参考材料になった。上手いが怖さはない、ボディが弱そうだ・・・など。それに対し井上を研究するにも圧勝の試合しかなく、特徴や欠点を導きにくい。弱点はあるはずだ、俺ならなんとかできる、自分を信じてトレーニングに励むしかない。
フォームはロドリゲスの方が美しく、欠点が何もなさそうにみえるのは彼が教科書的だから。教科書にない独自の個性がないからだ。対する井上はパンチにバリエーションが多すぎる。教科書にない、他人に出来ない距離や態勢や角度から一撃必殺のパンチが出てくる。だから写真に切り取ると無茶で無防備なフォームにみえる瞬間も出てくる。
改めて、エマニュエル・ロドリゲスは過去一いい選手だった。
そして井上尚弥の底力は無限だ。
井上尚弥の未来
事実上の決勝を制した井上、マニアには決勝のドネアにも楽勝だと言われている。自分もそうおもうが今はあまりそこを意識しない。憧れの存在、ドネアのキャリア、井上の強さを目の当たりにしての覚悟と準備などが想像の域を超えるから。それでもドネア自身の全盛期、シドレンコ戦やモンティエル戦の状態でやっと好勝負が期待できるくらいだろう。ドネアは強者と戦うことを恐れていない。むしろ極上の喜びにしている。
ロドリゲス戦の勝利を前提条件にトップランクとの契約が噂される井上は、遂に世界に解き放たれることになる。もう以前から日本独自のしがらみを捨てれば、100万ドルファイターとして世界の大手から引く手あまたの選手だったはずだ。
井上尚弥の環境
トップランク契約といってもマッチメイクやギャラなどのプロモートのみで、生活、練習の拠点は今までと変わらず日本だろう。ここまでの実力をつけたのだからこのままでも構わないが、井上の望む環境、気分転換のためにも本人の意思を尊重して欲しいと願う。現役、ピークは永遠ではない。
このブログでは本場(アメリカ)で一流(といわれる)トレーナーにみて欲しいなぁとずっと書いてきたが、もしかしたら本場アメリカにはそんなに強い軽量級はいないかもしれない。(フェザー級あたりにはモリモリいるだろうが)バンタム級に限っては今回大橋ジムが招聘したフィリピン人パートナー(特にKJカタラハ)が本当によかったと想像している。これからもこのやり方を貫くのか、フィリピン合宿等を慣行するのか、やはり本場を経験してみるのか知らないが、本人は伊藤雅雪のトレーニング環境などに強く惹かれていたのでそういう経験をして欲しいと強く願う。
井上尚弥の対戦相手
WBSSに優勝したら井上尚弥の次章がはじまる。軽量級ではマイケル・カルバハルに続く100万ドルファイターになるに違いない。こういう選手に対し対戦相手は皆一攫千金と手を挙げるのだろうか、それとも勝ち目がなくて逃げるのか、カルバハル、タイソンの頃を思い返しても想像がつかない。伝説は名勝負やライバルがいてこそ作られる。井上には可能な限りやりがいのある、意味のある相手との対戦が望まれるが、健全な相手のみにして欲しい。バンタム級において世界のマニアの触手が動く究極の相手がルイス・ネリだが、数々の愚行や山中2あたりから急激にサイボーグ化しており、ナチュラルではない黒さを感じるので、こういう選手との絡みは個人的には避けるべきだとおもう。何をしてでも、反則も辞さず勝とうというメンタルの持ち主だから。
長谷川やモンティエルやドネア、過去様々な偉人の例にならって、体格、骨格、体力的に無理のない範囲での階級で活躍して欲しい。
井上尚弥の功績
これから井上尚弥の新たな章がはじまるが、古くはファイティング原田や具志堅、竹原や鬼塚などは既に引退している年齢だ。ほとんど打たれても傷ついてもいない井上尚弥だし、昔と違い選手寿命は伸びているが、明日何があるのかわからないのがボクシングでもある。レジェンドたちは皆無謀な挑戦やプライベートのメンタルなどで綻びをみせた過去があるので、一日一日、一戦一戦を意義あるものに変え、大切に戦って欲しい。
なんといっても彼の功績は、世界のP4Pの座を問われるスペシャルな存在が日本にいる、いつも魅了してくれるという事実だ。それは試合が凄い、エキサイティングというだけでなく確実に次世代に繋がる。子供達が井上尚弥に憧れ、目標とする、別の分野の者にも夢や希望を与える、パッキャオが世界の子供たちに与えた影響と同じことを井上尚弥が実践している。
狭い世界でいえば確実に我々が大好きなボクシングの次世代を引っ張っていくことになる。
これからも、美しくカッコよく情け容赦なく!輝き続けて欲しい。
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