トンネル・ビジョン/(マジックマン)アントニオ・ターバー

たまたま、前記事のメイウェザーのコメントで、どなたかがトンネル・ビジョンという言葉を紹介していたが、ターバーの話にも出てきた。

実はそんなにターバーの事をじっくり見たわけではないが、ロイ・ジョーンズJrをはじめて倒した男であり(モンテル・グリフィンのは失格)ハマれば強いというか、サウスポーのパンチャーとしてとてもやりにくい選手であり、もっと名王者になれる素質であるとは感じていた。

基盤を築くことなくあっちこっちに揺れるから定まらないだけで実力は相当なものだった。

しかし取り上げたのは彼の言葉が印象的だからだ。

カリフォルニア州カーソンで、クルーザー級プロスペクトのラティーフ・カヨーデと引き分けた試合がターバーのラストファイトだった。(それから復帰し3戦している)薬物テストで陽性となりキャリアが1年中断されたが、今でも法廷で争っている。

ターバー
「いろんな可能性が考えられるけど、ステロイドを服用した事なんてありません。全ての疑惑がクリアになった時、私は彼らに問いたい。一体何が見つかったんだって。彼らは「何か」の痕跡をみつけたとしか言わない。出場停止処分の意味もわからない。身の潔白を証明するためにあらゆる事をしたが、疑惑が晴れないのであれば俺は何かを服用したんだろう。静かにおとなしく待つだけさ。」

その間、ターバーはテレビのコメンテーターなどをして過ごした。

「マジックマン」はもう二度とボクシングが出来ないとは感じていないが、モチベーションを失った。

ターバー
「ボクシングは簡単な仕事ではない。またやりたいとおもえるかどうかだ。」

今ではターバーはコメンテーターとして人気者だ。

ターバー
「コメンテーターは自分に合った仕事です。チャンスがあればまたボクシングに復帰したい。まだコンディションはキープしている。私が誰だか知ってますか?ロイ・ジョーンズをノックアウトした男だぜ。また同じ性格、能力、プロフェッショナリズムをリングにもたらすだろう。」

しかし2015年、スティーブ・カンニガムにSDで敗れて以降、試合をしていない。

アントニオ・ターバーは1995年ドイツのベルリンで行われた世界選手権で金メダルを獲得、96年のアトランタオリンピックでは銅メダルを獲得した。158勝8敗というアマチュアキャリアを残して27歳という高齢でプロデビューした。

2000年6月23日、全勝のままIBF世界ライトヘビー級挑戦者決定戦でエリック・ハーディングと対戦するも、プロ初黒星となる0-3(111-116、111-116、111-116)の判定負けを喫し、IBF王座への挑戦権の獲得に失敗。

この敗北を受けて、高齢のターバーに明るい未来を予測した者はほとんどいなかった。

https://www.youtube.com/watch?v=OKdRciJyloM

2002年7月20日、インディアナポリスのコンセコ・フィールドハウスでエリック・ハーディングと対戦し、5回43秒TKO勝ちを収め、2年ぶりの再戦でリベンジに成功。

2003年4月26日、ロイ・ジョーンズ・ジュニアの王座返上に伴い空位となったWBC世界ライトヘビー級王座とロイ・ジョーンズ・ジュニアの王座剥奪に伴い空位となったIBF世界ライトヘビー級王座を懸けた一戦でモンテル・グリフィンと対戦。3-0(120-106、120-106、120-106)の判定勝ちを収めWBC王座の獲得に成功、IBF王座の獲得にも成功した。IBF王座は防衛戦を行わずに返上。

長い間憧れ、夢中になっていた、当時P4P最強と言われた絶対王者、ロイ・ジョーンズJrとの対戦が実現する。

2003年11月8日、マンダレイ・ベイ・ホテル&カジノで行われたWBC世界ライトヘビー級タイトルマッチ、IBO世界ライトヘビー級王座決定戦、WBA世界ライトヘビー級スーパー王座決定戦でロイ・ジョーンズ・ジュニアと対戦し、0-2(114-114、111-117、112-116)の判定負けを喫し、WBC王座から陥落、WBAスーパー王座の獲得に失敗、IBO王座の獲得にも失敗。

ターバー
「ロイ、今夜お前は言い訳を考えておけよ!」

2004年5月15日、マンダレイ・ベイ・ホテル&カジノでロイ・ジョーンズ・ジュニアとのリターンマッチでWBAスーパー・WBC・IBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ、IBA世界ライトヘビー級王座決定戦並びにWBF世界ライトヘビー級王座決定戦を行い、2回1分41秒TKO勝ちを収め、WBC王座の再獲得に成功し、WBAスーパー王座、IBO王座、IBA王座並びにWBF王座を獲得した。

https://www.youtube.com/watch?v=Cn1c7LhR4Ds

当然のことながら、ターバーはこの勝利をキャリア最大の想い出に挙げた。

ターバー
「もちろん、ロイ・ジョーンズJrを初めてノックアウトした男であることは最高の誇りです。」

2006年6月10日、ボードウォーク・ホールで行われたIBO世界ライトヘビー級タイトルマッチでバーナード・ホプキンスと対戦し、0-3(109-118、109-118、109-118)の判定負けを喫し、王座から陥落。映画『ロッキー・ザ・ファイナル』出演のためヘビー級の体を作り、直後ライトヘビー級に落としたため体調を崩したといわれている。

ターバーはキャリアを通じ、ホプキンスとの再戦、無敗で引退したジョー・カルザケと戦いたかったという。

ターバー
「ホプキンスは愚かな判断をする男ではない。再戦に応じないのは賢明だろう。カルザゲ、彼を倒す能力が俺にはあったとおもう。決して負けなかった男で、ジョーンズやホプキンスにも勝っている。しかしスタイルが試合を作るんだ。カルザゲにとっての俺は悪夢だったとおもう。サウスポーであるだけでなくスピードとパワーもある。俺は彼に合っていたとおもう。捕まえて倒すことができる。カルザゲは実際、ホプキンスにもジョーンズにも倒されている。そんな彼に俺を倒すことはできない。」

2008年4月12日、タンパベイ・タイムズ・フォーラムでクリントン・ウッズの持つIBF世界ライトヘビー級王座と自身の持つIBO世界ライトヘビー級王座を懸け対戦し、3-0(119-109、117-111、116-112)の判定勝ちを収め、IBF王座の獲得に成功、IBO王座の2度目の防衛に成功。

2008年10月11日、パームスでIBFは初、IBOは3度目の防衛を懸けチャド・ドーソンと対戦し、0-3(109-118、110-117、110-117)の判定負けを喫し、IBF王座の初防衛に失敗、IBO王座の3度目の防衛にも失敗し、IBF王座から陥落、IBO王座からも陥落した。

2011年7月20日、シドニーのシドニー・エンターテイメント・センターでIBO世界ライトヘビー級王者ダニー・グリーンと対戦し、グリーンの9回終了時棄権によるTKO勝ちを収め、IBO王座の4度目の獲得に成功した。

それから冒頭のラティーフ・カヨーデとの試合、出場停止処分となり今日に至る。

シルベスター・スタローンと共に映画「ロッキー」に出演し、ヘビー級王者、メイソン(ザ・ライン)ディクソンを演じた。

ターバー
「既に演じることは出来たので、今度はそれを現実にする番です。」

ライバルについて

ベストボクサー エリック・ハーディング

私にとってはエリック・ハーディングになります。彼はとても賢く巧妙な動きで、捕らえるのに苦労しました。再戦でなんとか捕まえてノックアウトできました。究極にスキルフルでタフで、試合に勝つのはパズルを解くようでした。

ベストジャブ ハーディング

これもハーディングですね。彼はサウスポーでフェイントやトリックが抜群でした。様々なアングルからジャブを打ち込まれました。再戦でノックアウトした試合でさえ、序盤は彼のペースでした。私は最高のコンディションでとてもシャープに仕上がっていたので、なんとかカウンターで局面を打開しましたがストップまでスコアでは負けていたとおもいます。あれは私のピークだったから、あんなに難解なパズルを解けたのだとおもいます。

ベストディフェンス バーナード・ホプキンス

ホプキンスと言わねばならないでしょう。あの時は自分はベストコンディションではなかったので彼にパンチを当てるのが難しかった。映画の撮影で長いレイオフがあったのです。ホプキンスは全ての面で私を上回って凌駕しました。しかし試合をした気がしません。体験学習のような感じで私にとって最悪のパフォーマンスでした。

ベストチン グレン・ジョンソン

間違いなく彼です。ありとあらゆるパンチで彼を殴りましたが倒れませんでした。岩のようなアゴを持っていました。

ベストパンチャー ハーディング

やっぱり私にとってはハーディングです。右フックでアゴが折れました。彼はKO率が低いからみんなパワーがないと言うけど、どのパンチにもパワーがありました。彼は相手を欺くようなスタイルなんだ。フィラデルフィアの素晴らしい狡猾なファイターです。

ハンドスピード ジョーンズ

ロイが一番速かった。信じられないようなスピードだった。しかし私はあの時ゾーンに入っていたから全てのパンチが見えました。彼が自分を高めてくれたんです。

フットワーク ジョーンズ

これもロイでしょう。いろんな方法を使って彼を罠に仕掛けたが、彼は機動力があって騙されなかった。たくさん動き、ダンスした。だから彼がミスを犯すまで我慢して耐え抜く必要がありました。

スマート ホプキンス

彼はズル賢いんだ。だからスマートと言ってもアスタリスク(※)が必要だよ。試合がどのように進んだのか、自分がベストを尽くしたのかわからなくなるようなものだった。今でも私は彼を打ち負かす能力があるとおもっている。自分と同じレベルのファイターには感じなかった。だから彼との試合は最も憂鬱な時間のひとつです。その夜なぜ自分の実力が出せなかったのか、ホプキンスだけが偉大にみえたのか・・・あの夜、2人の偉大なファイターはいませんでした。残念ながらホプキンスだけでした。

屈強 グレン・ジョンソン

彼が最も根性のある男でした。彼とは計24ラウンド戦いましたが、毎ラウンド地獄のようでした。彼を打ち負かすのは大変なことで、彼は私の中のベストを引き出しました。接近戦を覚悟しないと彼には勝てないけど自分にそれが出来ると教えてくれたのも彼でした。彼のスタイルで渡り合ったのです。時にそのような覚悟を決めなければならない闘いがあります。ジョンソンがそれを引き出してくれました。

総合 ロイ・ジョーンズ

ロイ・ジョーンズ、彼は史上最強のボクサーの一人だ。しかし自分にとっての最強はエリック・ハーディングでした。ハーディングが最もタフな相手でした。

自分にとってのロイ・ジョーンズはもっとも優秀な天才ボクサーであり、自分を成長させてくれた相手でした。彼が私のベストを引き出してくれたのです。

ロイと一緒に山頂に行かなければならない。自分がベストでなければとても歯が立たない。あの時、自分の中で全てが繋がりました。気を散らすものは何もありませんでした。それは私の目の前にあるトンネルビジョンでした。マトリックスのように感じさえしました。

ロイと一緒にその山を登り、自分に何ができるかを知り、それを引き出すことが出来ました。

全ての試合でそれができればいいのに、残念ながらできません。私は人間です。

ロイ・ジョーンズのような究極の相手と戦う時は自分のレベルを上げなければなりません。自分が思い描いている以上にいいものを導きださなければならない時があります。あの試合では自分や人々が想像している以上の男になることができました。なぜなら相手がそれだけ偉大な男だったからです。

https://www.youtube.com/watch?v=8C876r9TUOs

やはりコメンテーターをしているだけあって頭がいい。メキシコやフィリピンのボクシングジャンキーな選手とは感想の深さや長さが違う。

ファイターには色々な個性や能力があり、決して王者にはなれなかったが超一流の者がいたり(エリック・ハーディング)
ロイ・ジョーンズが失神KO負けしたのも今となっては納得できるタフマン(グレン・ジョンソン)
何が強いのかわからないのに自分の良さが出せずに消化不良にしてしまう(バーナード・ホプキンス)
最強であるが故に相手のベストを伸ばし、引き出してしまった(ロイ・ジョーンズ)

とても考えさせられる内容でした。

アントニオ・ターバー自身が大器晩成型の未完のファイターだったので、全てを無双する万能の領域までいかなかったのだとおもう。誰にでも勝てるような潜在能力を秘めていた。しかし晩年はドラッグテストで引っかかってばかりおり、故意ではなくとも無縁ともいえなかったのだろう。これに関してはみんなにいえることといえそうだが・・・

トンネルビジョン
自分の好む考え方とは異なる他の可能性を考慮しようとしない姿勢を意味するメタファー(隠喩表現)であり、例えば、医師が患者の症状に対処したり、刑事が被疑者を絞り込む場合のように、何らかの好ましい結果を事前に想定してことに当たる状況をいう。この問題を解決する一般的な方法としては、最初の検討とは無関係で、最初の検討者がもっていた思い込みや先入観を共有していない誰かに、検討内容について一から見直してもらう、セカンド・オピニオンがある。

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