
ALAジムの雑用係からはじめてジムの顔となったドニー・ニエテスは、ペットのニシキヘビ「Ahas」と共にどこへ行くのだろう?
[st-card id=49998 ]ドニー・ニエテス(42勝23KO1敗5分)は、過去10~15年間、軽量級でもっとも優れたファイターの一人だ。フィリピンのネグロスオクシデンタル州バコロド出身の38歳は4階級で世界王者に輝いた。
そんな彼の偉業にも関わらず、ニエテスのキャリアは2つの問題に悩まされている。
一つは、知名度の不足だ。彼はボクシングのハードコアなファンにしか認知されていない。そして二つ目は、より重要な事だが、彼のキャリアにはビッグネームが不足している。ニエテスを観たことがあるならば、彼は軽量級のビッグネーム、ロマン・ゴンザレス、ファン・フランシスコ・エストラーダ、井上尚弥らに比肩する実力者であることがわかるが、彼のキャリアには有名人がほとんど登場しない。
2018年12月31日、中国のマカオで日本の井岡一翔を破り、空位のWBOスーパーフライ級王座を獲得したのが、唯一の大きな勲章だ。この勝利を特別なものにしているのは、当時3階級王者で、アジア大陸で最も成功したファイターの一人であった井岡が相手だったからだ。
ついに、ニエテスは人々の認知と注目を集めたようにみえた。その後彼はタイのシーサケット・ソー・ルンビサイに対戦を呼びかけたりしたが、突如幽霊のごとく消えた。
2019年2月、ニエテスは地道な防衛戦ではなく、スーパーフライ級のビッグネームとの対戦を目指してWBO王座を返上した。しかしその後、彼の話題を聞かなくなった。引退にまつわる話も聞かれない。
情報筋によると、ニエテスは現在指名挑戦者の位置におり、世界戦のチャンスはあるというが、所属先のALAジムが財政難により閉鎖し、現在はフリーエージェントとなっている。したがってニエテスの次の動きはさらに未知数なものとなっている。
彼がボクシングにかけた年月と功績を考慮すれば、もう十分だと控え目に悟ったのかもしれないが、公式には発表されていない。
残念なのは、ニエテスがエリートファイターに十分対抗しうる能力を38歳の今でも持っていることだ。彼のキャリアがこれで終わるならば、その地味でも素晴らしいキャリアが惜しくてならない。ニエテスがまだ終わっていないのであれば、今彼は世界で何を持っているのだろう?現在、彼が何を考え、どこに向かおうとしているのか、正確な情報が欲しい。
ニエテスVS井岡のWBOスーパーフライ級タイトルマッチは、コロナ禍の渦中かといえるほど寂しい会場で行われたが、玄人がうなる素晴らしい技術戦だった。個人的採点は引き分けと出たが、総合的にはニエテスの方が少しだけパワフルでダイナミックで華麗なファイトを魅せたようにおもう。これが日本人との初めての対戦であり、これでニエテスの全貌を知ったとさえいえる。
ずっとWBOやIBF界隈の王者だったので、ミニマムから始まったニエテスの歴史を注意深く見守ってきたわけではないが、彼はパッキャオに勝るとも劣らないメキシカンキラーであり、パンチャーであり総合芸術だった。フィリピンであそこまでの完成度、バランス感覚を備えたファイターは珍しい。
ニエテスが返上した王座は結局井岡が獲得し今に至るが、本当の王者はニエテスであるというモヤモヤがどこかにある。
井岡にとってはもちろん、田中恒成、ロマン・ゴンザレス、ファン・フランシスコ・エストラーダ、シーサケット・ソー・ルンビサイらにとってもニエテスとの対戦がひとつの大きな物差しだろう。
フィリピンには強烈な素材がゴロゴロいるなというのを感じさせる象徴だったALAジムが最近財政難で閉鎖した。ALAジムの雑用係からはじめてジムの顔となったドニー・ニエテスは、ペットのニシキヘビと共にどこへ行くのだろう?
残された時間はほとんどない。
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