視界不良なミスリード/(アメリカン・ドリーム)デビッド・リード

最短世界奪取、複数階級最速制覇・・・最短、最速そんな記録はいらない。これはキャリアを急ぐ日本のボクシング界、関係者に是非読んで欲しい記事だ。

いつの時代もスポットライトを浴びて、世界を変えるヒーローとして宿命づけられるファイターがいる。元世界ジュニアミドル級王者、(アメリカン・ドリーム)デビッド・リードがそうだった。

デビッドの物語は栄光と悲劇、その両方だ。

フィラデルフィアのリードはトップアマチュアとして1996年のアトランタオリンピック米国を代表。恐らくこれが米国オリンピック史上最後の偉大なチームだった。

フェルナンド・バルガス、エリック・モレル、デビッド・ディアス、アントニオ・ターバー、そして未来のグレート、フロイド・メイウェザーJrなど、のちの世界王者が集結していた。

アトランタオリンピック決勝、リードはキューバのアルフレド・デュベルゲルに大きくポイントリードされていた。しかし右の一発で大逆転、デュベルゲルをノックアウトし、アメリカ唯一の金メダリストに輝いた。

未来を嘱望されたリードのプロデビューは慢性的に下がった左瞼の治療のため少しだけ遅れた。リードの特徴的な左瞼は、1995年のアマチュアの試合、ダニエル・サントス戦で痛めたものだった。

その左瞼が彼のボクシングキャリアに永遠の影を落とすことになる。

1997年3月21日に100万ドルの契約金、鳴り物入りでプロに転向。HBOでプロデビューを果たした最初のボクサーになった。デビューから期待値の高いリードの対戦相手は皆キャリアが豊富だった。元世界王者のホルヘ・バカを含む強豪に勝ち続けた。その試合の全てがFOXやHBOで全国放送され、リードはもはやセンセーションでありアメリカの期待を一身に背負っていた。

1998年、連戦連勝の中で最高のひとつが元世界王者のサイモン・ブラウンに対する勝利だ。その後無敗のサウスポー、ジャームズ・コーカーとの試合で厳しい試練に直面。2度のダウンを喫する苦しい内容ながらユナニマスで勝利、戦績を11連勝とした。陣営は未来のヒーロー、リードの出世を益々急いだ。

わずか12戦目でWBAジュニアミドル級王者のローラン・ブドゥアーニに挑戦、見事判定勝利で世界王者に輝いた。

2度目の防衛戦、キース・ムリングスはリードにラフな肘打ちなどを仕掛け、大苦戦となるもこれを判定でクリア。ビッグネームの対立王者、フェリックス・トリニダードとの大一番を迎えた。

トリニダードは前戦、キャリア最大の相手オスカー・デラホーヤに勝ってピークを迎えていた。試合は2000年3月3日、ネバダ州ラスベガスのシーザーズパレスで行われた。リードは序盤上手く戦い、3回にはトリニダードからダウンを奪う。目の覚めたトリニダードは後半にかけて逆襲しキャリアの浅いリードを打ちのめし、大差判定で勝利するまでに何度もダウンを奪った。

振返ってみれば、リード15戦目、トリニダードはキャリアピークで36戦全勝。
期待のホープをあまりにも早く狼の檻に入れた結果だった。

これが、リードのキャリアのブレイクポイントになった。

リードの試合はいつも序盤はいいが後半にフェードアウトしていく。
垂れ下がった左瞼は悪化し続け、リードの世界は悲鳴を上げてクラッシュしようとしていた。

2001年11月11日、セントルイスの警官でもある無名のサム・ヒルにノックアウトで敗れ、短い彼のキャリアは永遠に幕を閉じた。通算戦績は17勝7KO2敗。対戦相手の戦績を合計すると470勝88敗に及ぶ。これがリードの早すぎるキャリアの崩壊を象徴している。

現在、リードはミシガン州で暮らしながら、リングの外で多くの悪魔と戦っている。鬱病を患い多くの時間人里離れた修道院のような場所で本や雑誌に囲まれて孤独に暮らしている。ホームレスのシェルターで感謝祭のディナーを食べる。2005年の猛暑、車内を締め切り熱中症を起こし心肺停止、病院で蘇生措置がとられた。ボクシングとの関わりは一切ないが、今でも多くのフィラデルフィアのボクサーはリードをリスペクトしている。

かつてのスターに起きた事実は悲しい現実だ。
彼の左瞼が健全であったならどうだっただろうか?
彼のチームがリードを正しく導いていたなら、どんな未来が待っていただろう?

(アメリカン・ドリーム)デビッド・リードはあまりに髙い期待値のあまり、厳しいキャリアを急ぎ過ぎた。
これと同じ事が続く限り、リードのほろ苦い物語が繰り返されるだけだ。

そういえばいたよなぁ、な選手だったが、アメリカ唯一の金メダル、デビッド・リードは当時、フロイド・メイウェザーより人気も期待値も高い選手だった事が想像できる。ニックネームはアメリカン・ドリーム。(リードはジュニアミドル級の金メダル、メイウェザーはフェザー級の銅メダル)

多くは語らない。日本にもキャリアを急ぐあまり残念な結果となった選手がいる。
選手のその後の人生まで考えた育成をすべきなのだ。
リードの過去と今を知れ。

リードのプロとしてのキャリアはわずか4年だった。

それにしても、フェリックス・トリニダードというのは改めて、様々な選手の壊し屋だな。レジェンドシリーズでしょっちゅう出てくるが、いつも序盤にダウンを取られて逆襲して相手を潰す。敗れた相手はその後のキャリアまで崩壊していく。彼の拳がグレーであったことが報告されているが、日本に大ファンも多いからこれまた多くは語らない。

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コメント一覧
  1. 左瞼は下がっているだけでなく、視力もかなり悪くほぼ右目しか見えない、それで金メダルをとったから余計にリスペクトされているそうです。チヤホヤしていた人が皆去ったり、裏切ったり、それで人間不信になり今の状況だそうです。これを書きながらもっと詳しい記事を見つけたのでいつか紹介できれば・・・

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  2. デビッド・リード、五輪で金を取ってプロでもチャンピオンになったのに報われないですね。
    心配停止にまでなっていたとは。
    瞼の理由もはじめて知りました。

    僕も村田はそれほど強い選手とはやっていないと思います。

    帝拳マジックなんでしょうけどメキシコとかブラジルの選手とか微妙な相手ばかりでしたよね。
    倒れ方とか片八百長なのかな?とも思ったこととかありました。

    カーティス・スティーブンスとかアルフレド・アングロでもやったら余裕で負けていたと思います。ロサドもどうかな…。

    世界レベルではKO出来てないし、それほどテクニックがあるわけでもないので。

    前回も負けるだろうと思ってたら案の定負けて、今回も負けだな、と思っていたら根性見せたので感動はしましたが、防衛は期待出来ないので、それなら最後にビッグネームとド派手にやるのが一番かな、と素人は思います。

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  3. 自分もティトの灰色の拳については静かにショックを受けてる一人です。

    記事にも出ているブーデュアニが対戦を恐れて引退したと言われる程の強豪指名挑戦者だったママドゥ・ティアムを一発でお岩さんにして戦意喪失させたアッパーも、ティトの天才的なパンチのキレだと信じていたので…

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    • そういうのも本場じゃ色々あるから引退後はわりと静かなんじゃないすかね、ティト。日本人には縁のない話だけど・・・

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  4. 最短、最速といえば井上とか田中当たりですけど、彼らに関していえばタイトル挑戦前に戦うべき相手がもういなかったってのも大きいんじゃないですかね。
    井上は田口を退けて、OPBFタイトルを獲ってから世界戦。
    田中もOPBFタイトルを獲ってから世界戦。
    順当では?
    当時のミニマム級やライトフライ級に他に戦うべき相手がいたのなら教えていただきたい。

    この2人以外にキャリアを急いでる日本人選手って誰かいましたっけ。
    名城とかはそうだったけど、10年以上前の選手だしなあ。
    ちゃんと国内に人材がいる階級の選手は急ぐことなく地道にキャリアをつけてるパターンの方が多いと思うんですけど。
    久保隼だって一応国内でサバイバルマッチを制してからタイトルマッチに挑んでますからね。キャリアを急いだわけじゃなく、単純に世界の器ではなかっただけでしょう。

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      • ????じゃどの階級の話かな?最短世界奪取、複数階級最速制覇なんて辰吉、井岡、尚弥、田中の軽量級しかないだろう。

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        • すみません、特定の日本人を示すつもりで書いたのではなく
          こういう事例があるよと伝えたかったのですが・・・

          強いていえばどなたがが言う通り辰吉です。

          そして

          真●ジム
          ワタナ●ジム

          あたりにもモノ申したい気持ちです。

          まぁ、銀二朗さんとか、でしたっけ?
          ミニマムとかライトフライ級では相手がいないので出世を急いでいいのかもしれませんが
          それは単にプロに強い選手が来てない現状だからでしょう。

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    • そうですね、今のスーパーバンタム戦線見てると日本人世界ランカー何人もいるのに国内で指名挑戦者争いなんてしないし当人らがつぶし合いして消耗するのを望んでないならいいんじゃないかな、ムラザネvs坂本とかドヘニーvs高橋みたいに王者側に楽な相手と思われて組まれでもしないとチャンスつかめない現実に早いも遅いもない、万全を期して挑戦っていう身分でももうないでしょう日本は。

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  5. そうは言っても日本の場合大手メディアでは「現世界チャンピオンか引退した元世界王者」じゃないとボクサーとして(商品としても)扱ってもらえないわけだし、
    っていうか管理人さん前は井岡や村田の事王者にふさわしい相手と戦ってないとか言って批判してたじゃん。
    レギュラーでも王座を取って選択挑戦で勝てそうなランカー(イタリア人とかレベコとか)に経験積むのとタイトル避けて王者になれなさそうなランカーと戦うのと実態が違わないなら前者の方がいいに決まってるでしょう稼がないと家族もジム養えないしビッグチャンス(できなかったけどゴロフキンとか)作れないわけだし。
    ハイアマは即戦力とか言ってたじゃん。

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    • 井岡も村田も昔と今じゃ状況が違うし、それでも本場の厳しさに比べりゃ随分恵まれた身分だし、ハイアマは即戦力なのは当たり前だけどティトでは話が違って来るし、あんたの言ってることについていける人の方が少ないとおもうよ。

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    • 常に一線級と戦わされたリードとエンダムとやるまで雑魚狩りだった村田のキャリアは全然似てないと思いますけど。

      リードは時期尚早だった
      村田は逆に遅すぎる

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  6. 改めて見てもティトのパンチがヤバイ。
    こんな鉄の固まりで殴られたみたいな倒れ方する?
    なにかやってたかやってないかはともかく、そのくらいヤバイってことです

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