突破者/エロール・スペンスJrVSマイキー・ガルシア

普通の世界王者を超えた次元の「突破者」だけに通じる感性、共感の領域。マイキーに関してはみえている世界が常人とは違います。

エロール・スペンスJrとマイキー・ガルシアについてこれ以上の記事はもうないな。長いのでスルーするつもりだったが無視できない。

3月16日、どんな結末になろうとも、ボクシングの歴史の1ページに残る、見逃してはならぬ異次元の試合だ。

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エロール・スペンスJrとマイキー・ガルシアが戦うのはお互いが求めている相手だからだ。それはかなりリスクを伴うものであり、他の王者と対戦する以上の代償を払うものでもある。

8階級にそれぞれ王者が一人、誰もがそれを求めた時代があった。しかし現代ではその景色は異なる。ただの王者では足りない。現在は4団体17階級の王者がおり、さらにIBOやIBAもあり、スーパー、レギュラー、暫定、ゴールド、シルバー、ダイヤモンドなど王座のバーゲンセールである。

それは「王者」という言葉を意味のないものにしている。まわりがそれを認定するよりもファイター自身が自らを定義しなければならないという結論に達したのがエロール・スペンスJrとマイキー・ガルシアだ。

ウェルター級には現在5人の王者がいる

WBA キース・サーマン
WBC ショーン・ポーター
WBO テレンス・クロフォード
IBF エロール・スペンスJr
IBO チュラニ・ムベンゲ

(パッキャオはWBAのレギュラー王者、IBAは空位)

本当の王者は誰なんだという議論はファン、メディア、選手自身に託される。その中でもスピード、パワー、サイズ、そして最高の信念を持っているのが無敗のエロール・スペンスJr(24勝21KO)であると信じている。

一方、マイキー・ガルシアはフェザー級からスーパーライト級まで既に4階級を制しており、昨年WBCライト級王座の指名戦を放棄した。マイキーが求めているもの、それは伝説的な地位だ。マイキーは恐らく最強のウェルター級王者に勝つだけではなく、12ポンドもの重さの筋肉を背負って戦わねばならない。

マイキー
「俺がやろうとしている事を誰もやろうとはしない。試合以後、俺が最高のファイターであることにみんな気づくだろう。」

マイキーは同時にフェザー、ライト、ウェルターを制したヘンリー・アームストロングのような事をしようとしている。スーパーライト級を飛ばしてウェルター級を一気に攻め落とそうとしている。

スペンスにとってのテーマはかなり異なる。マイキーは純粋なウェルター級ではないが、超エリートである事は証明されており、P4Pトップ10にも入っている。伝説とまではいかないかもしれないが彼にとってもリスクを伴う闘いであり、スペンスに歩み寄るマイキーの方が注目されている。

どちらも敢えてこの試合をせずとも様々な選択肢があった。
実際、マイキーとキャリアを共にしたロベルトや父親は別の道を薦めた。

マイキー
「父もロベルトも当初は反対していた。もっと別の道で勝ち続け稼ぐ戦いがあると。」

今の階級、体重適正に沿って戦い、その時がきたらウェルター級に挑戦すればいい、決して不可能ではない。しかしそれは今じゃない。しかしマイキーは他の皆とは違った。意味のない相手と対戦する価値を見出せなかった。スペンスがとても困難な相手であることは誰もが知っている。スピード、パワー、8オンスのグローブでマイキーはその威力を思い知るだろう。

マイキー
「話し合いは終わった。今俺たちは勝つためにトレーニングを始めた。」

ロベルト
「マイキーはとても頭がいい。観てるととてもオーソドックスにみえるけどマイキーがどれほど難解なファイターかよくわかっている。私は12人の世界王者と仕事をしたけどマイキーは特別な存在だ。」

それでもマイキーはスペンスに打ち負かされるべきである。スペンスの方がナチュラルに大きいだけでなく、彼のホームタウンでの試合だ。そこはスペンスが15歳の頃、サッカーよりもボクシングに愛情を傾けた場所であり、ボクシングに情熱を注ぐと決めた土地だ。

スペンス
「そこはボクシングジムだった。古びてエアコンもなく、中も外と同じ暑さだった。数日間はためらいがあったよ。2週間くらいして俺は3階級上の相手とスパーリングをした。俺は120ポンドくらいだった。相手は俺をボディで倒した。目が飛び出そうなパンチだったよ。でも翌日にはまたジムに行っていた。あまり深く考えていなかった。俺がもしボクシングを辞めたら、お前は何でもすぐに辞める人間になると親父に言われた。親父が俺を導いてくれた。

ボクシングで頭角を現してオリンピックにも出たさ、でもオリンピックにボクシングはなかった。俺はレナードやアリやフォアマンやロイ・ジョーンズを観てきたんだ。そっちが憧れだった。」

最近では多くのアメリカ代表がそうであるように、スペンスの夢はロンドン五輪の準々決勝で敗れた。

スペンス
「世界最大のステージ(五輪)は勝利を奪うんだ。(ジャッジが不可解)俺は悲嘆にくれた。アマチュアは複雑で難しいよ。」

すぐにプロに転向したスペンスは連勝を重ね、イギリスで安定王者のケル・ブルックの眼底を骨折させて王者になった。

スペンス
「あの時は身体にキレがなかったんだけど、真の王者はそれでも勝つものさ。」

その後、2度の防衛を圧勝した。その間、対立王者のキース・サーマンに何度も対戦を呼び掛けたがいい返事は得られなかった。

スペンス
「俺は”エニータイム”サーマンを待っていたよ。やつは”ワンタイム”だろ。ずっと待っていたのにね。」

誰ものらない、階級下のマイキーが声をかけた。スペンスは機会を求めこれにすぐさま応えた。ウェルター級の他のライバルがいかにスペンスを避けているかをよく示している。

スペンス
「マイキーはベストオブベストになりたいんだろう。彼にとっては歴史的な試合だ。マイキーを世界中の誰よりも尊敬するよ。彼は勇敢だ。誰も真似できない事だ。

マイキーはとても頭脳的で優れたテクニシャンだ。彼が俺に最初に電話をくれたんだ。マイキーはビッグネームだ。すぐに彼が真剣であることがわかった。彼が本気で勝ちに来るように俺もそうするよ。

この試合はマイキーにとっては伝説をかけた試合なんだろう。勝利と伝説、マイキーにとってはWINWINのゲームさ。もし負けたら、自分には俺ががデカすぎたというだろう。マイキーが俺に勝てばP4Pナンバーワンだ。マイキーがやろうとしていることは尊重するけど、願いは叶わないだろうね、俺は強い。より優れたファイターだ。」

一方のマイキーもスペンスに敬意を持っており、ボクシングをはじめた年頃も大体同じだ。しかし13歳から始め20年も人生の中心であるボクシングにそんなに没頭していたわけではなかった。家にこもっていた。

マイキー
「7人兄弟皆ボクシングをしていたけど、対戦相手がいないから相手をして欲しいと言われたんだ。俺はボクシングのトレーニングをした事もなくアマチュアのライセンスもなかった。家族の伝統からボクシングは少しだけ知っていて、やってみると簡単で楽しかった。

自分がボクサーになるとはおもっていなかった。それは兄弟の進む道であり親父の仕事だった。ロベルトやフェルナンド・バルガスが看板スターだった。俺はただ観戦するだけ。他のスポーツもしてなくてテレビゲームに夢中だった。」

マイキーの興味に関わらず、彼は天才であり、ボクシングの達人だった。スペンス同様、天から授かった才能に気づきそれを利用することにした。

マイキー
「俺にとっては簡単だったから時々退屈だった。テレビゲームと同じさ。レベルが上がってクリアしたらそのゲームは止めて次の挑戦しがいのあるゲームを探す。」

マイキーは14歳からアマチュアをはじめ、19歳でプロに転向した。30戦無敗で天才はオルランド・サリドと戦い8回で鼻の負傷で試合が止められるまでにサリドを4度もダウンさせた。現在記録を39勝と伸ばしているマイキーだが、本来であればもっと記録は伸びていただろう。契約トラブルで2年半のブランクを余儀なくされた。

契約トラブル(ボブ・アラムとの決別)もまた今回のスペンスへの挑戦同様に家族からは批判されたがマイキーは後悔していない。

マイキー
「俺は自分に賭ける。難しい時期もあった。希望はみえなかったが信念があった。そして今となっては報われた。ブランクが俺を錆び付かせるとおもっている人がいたならそれは間違いだった。俺のファンも俺のブランクと共に成長したんだ。

多くのファイターが世界王者になってもプロモーターを必要としている。選手にプロモートは出来ないしキャリアの発展には優秀なプロモーターが必要だ。トップランクは俺と一緒にいい仕事をした。彼らは一流のファイターを作る方法を知っている。けれど俺は自分自身がもっと大きくなるべきだという段階にいた。俺は今フリーエージェントだ。自分のキャリアは自分でコントロールしている。特定のプロモーターやネットワークとの取引はない。どんなプロモーターとも臨機応変に協力していくつもりだ。

俺はいまやりたい試合を手に入れることができる。自分のキャリアに最善を尽くすことができる。他人のアジェンダはない。俺自身を信じているから俺に賭けることができるんだ。」

その信念がこの試合を導いた。

ヘンリー・アームストロングが1938年に達成した、フェザー、ライト、ウェルター級の同時制覇を再現しようとしている。

それはボクシングの歴史上の偉業であり、マイキーもスペンスもよくわかっている。時代は異なるがこの偉業を賭けてマイキーは体格のハンデを放棄した。

スペンス
「マイキーがもし負けたら、自分には俺がデカすぎたというだろう。マイキーが俺に勝てばP4Pナンバーワンだ。マイキーがやろうとしていることは尊重するけど、願いは叶わないだろうね、俺は強い。より優れたファイターだ。」

多くの王者がいて、その中のごくわずかな者だけが伝説となる。伝説はその栄光のために全てを危険に晒しても構わないという者だけに与えられる。

マイキー
「俺のキャリアを通じて、偉大な伝説を探し求めている。それが階級上げることならば、俺に力を・・・それが相手のホームに行く事ならば、俺に力を・・・ダラス、ニューヨーク、ベガス、どこで戦おうと目の前の相手は同じ、そこに4本のロープとコーナーがあるだけさ。

スペンスは強い。彼は俺自身を思い出させるところがある。決して派手なファイターじゃないけどすごいパワーを持っている。それは対戦相手の姿をみればわかる。相手をとことん傷つけるパワーが必要で、スペンスには明らかにそれがある。

なぜ彼と戦うのか、俺にはこの戦いが必要だ。マーキーネームが必要なんだ。そして自分の方がいいファイターだと信じている。俺はより強く、速くなっている。どんな相手にも順応できる。サウスポーを苦にしたことは一度もない。もしアウトボクシングになるならスペンスのリーチを利用して対応できるしインファイトになってもスペンスのリーチを解き放って打ち込む。どんな状況にも対応できる。

誰も俺のような事はしたがらない。この試合が終われば俺がP4Pのトップだと皆が認めるだろう。親父もロベルトも他の誰かと戦って欲しいと願っていた。他の無敗の王者やトップランカー達と。彼らの気持ちはわかる。俺は小さいから段階を踏んでウェルター級に挑めと。それも検討したけど俺は常に最大のテーマを探しているんだ。エロール・スペンス以外に俺を本気にさせる男はいなかった。俺は素晴らしい王者、スペンスに勝ちたいんだ。」

ほとんどの人はリングの中のファイターの本質が見えていない。特別なものがみえていない。でもそれでいいんだ。俺には特別なスキルはない。何もわからないだろう。俺はかなりオーソドックスなスタイルだからね。

違いを生むのは微妙な小さな動きだ。俺は常に一歩先をいっている。相手はビデオで観てもそれに気づかない。リングで俺と対峙した時に今までとは全く異なる経験だと気づくんだ。間違いない。俺は勝ち方を知っている。」

スペンスも同様に感じている。しかし勝者は一人だ。そしてそれが誰になるかはわからない。スペンスのサイズを克服するには厳しすぎるという者もいればマイキーはどんな状況も克服してきたという者もいる。

ロベルト・ガルシアはこの試合のリスクをよく理解している。スペンスがいかに危険な相手であるかを。しかし彼は弟のことも一番理解している。

ロベルト
「エロール・スペンスからは何も奪えないよ。彼はコンプリートファイター、天才だ。でも2つの事だけは保証するよ。エロールはマイキーほどには強くない。そしてマイキーのような男と戦ったこともない。スペンスは戦争を覚悟しなければならない、俺たちも同じだ。」

その夜に手を挙げた者は、誰もが求める尊厳を勝ち取り、ベルト以上の伝説へ足を踏み出すことになるだろう。

エロール・スペンスJrとマイキー・ガルシアは同意した。
あとは彼らに託された。

長い、でも深い。

特にマイキーの独壇場となっているが、彼の言葉はドキッと胸に突き刺さるものがある。
ほとんどの人はリングの中のファイターの本質が見えていない。特別なものがみえていない。俺には特別なスキルはない。何もわからないだろう。俺はかなりオーソドックスなスタイルだからね。

ザ教科書、まったくぶれない超普通のボクシングと例えてきたが、シンプルにして究極に研ぎ澄まされている。なんてことはない、マイキー本人が一番わかっていた。

違いを生むのは微妙な小さな動きだ。俺は常に一歩先をいっている。相手はビデオで観てもそれに気づかない。リングで俺と対峙した時に今までとは全く異なる経験だと気づくんだ。間違いない。俺は勝ち方を知っている。

どんな相手も見える、常に上を行く、勝ち方を知っている。これはそういう次元、境地じゃないと出ない発言だろう。

階級の壁を超越した試合というのは、異能のパッキャオの奇跡以外はあまり記憶がない。

近年では

ドネアVSウォータース
ロマゴンVSシーサケット
リコンドーVSロマチェンコ

のようにロクな結果が出ていない。
ロイ・ジョーンズやホプキンスのそれはスタイルの問題で違う気がする。

ホルヘ・リナレスもカノという一流とは言い難いファイターのパンチが掠めただけで崩壊させられ、スーパーライト級進出を断念した。ロマチェンコも今後はスーパーフェザー級に戻すことを視野にいれるという。

記事を読むとマイキーというのは想像以上に自信家であるとともに、ガルシア家の最高傑作であり半端ない頭脳、天才のようだ。スペンスもまた天才だが、こちらはよりナチュラル、天然に強いという印象だ。

マイキーが偉業を達成するリアリティを実感するためには1938年のヘンリー・アームストロングまで遡ってみないと想像もできない。

天才のみが知る、紡ぐ言葉に唖然とした。

しかし結局は、スペンスとマイキー、どちらが化け物、モンスターなのか。
想像以上なのか、残酷な結果が待っているだけなのか・・・

それだけだ。

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