![彼らのインディアン・サマー/ジョージ・グローブスとジェームズ・デゲールの引退](https://box-p4p.com/wp-content/uploads/2019/03/JamesDegaleGeorgeGrovesJamesDeGaleGeorgeS3kHUokz2Q2l.jpg)
両者共に英国ファイターなので、その人気ほどには日本では話題に乏しく、強烈な印象に残るほどのインパクトはなかったが、一時代を築いた両雄の同時期の引退には、ねぎらいと感謝の言葉しかない。
ジョージ・グローブスとジェームズ・デゲールが同時期に引退することになった。彼らは長い間ライバルとして互いに影響しあう運命にあったが、それも年を重ね古びたものになった。
彼らは異なるキャリアを持ってプロになったが両者ともに世界王者に輝いた。アマチュアではライバルであった両者、デゲールの無敗記録を最初に破ったのはグローブスだが、2008年の北京五輪に出場したのはデゲールだった。(しかも金メダル)
友人のデビッド・ヘイとアダム・ブースの元、ヘイメイカーに所属したグローブスは、強烈なジャブと右ストレートを持つスラッガーとして人気を博した。一方のデゲールはパンチャーとしてではなくスリックなフットワークを持つテクニシャンとしてスタイルを築いていった。
デゲールのラストファイトとなったクリス・ユーバンクJr戦ではフットワークもコンビネーションも冴えなかった。序盤に攻められると彼はいつも守備的になる。事前予想ではデゲールのキャリアがユーバンクを上回るとみられていた。結果的にデゲールにはもう余力があまりないという事が判明した。
デゲールはアマチュア時代のライバル、アイルランドのダレン・サザーランド(銅メダル)を下して金メダルを獲得した。サザーランドは五輪の翌年、精神を病んで自殺した。
キャリアを通じて、様々な感情を呼び起こしたグローブスとデゲールは、カラム・スミスとクリス・ユーバンクJrにそれぞれ敗北しほぼ同時期に引退することとなった。
現在30歳のグローブスはまだやれる、十分な力が残っているようにみえ、一方の32歳のデゲールは既に全盛期にないという印象を残したが、両者ともに充実した現役生活を送り、引退を決意した。これはボクサーとしては稀なことだ。
彼らに十字架のように立ちはだかる唯一の男、ノッティンガムの元スーパーミドル級王者、カール・フロッチは2度戦ったグローブスの事は認めるような発言をし、デゲールに対してはもし戦っていたら叩きのめしていただろうとコメントした。
それは、ファンが好む推測であり、デゲールがフロッチが持っていないオリンピック金メダリストであるという事実に対するあてつけともいえる。デゲールよりもグローブスの方が強敵を恐れず勇敢だったという印象がそうさせているのかもしれない。デゲールは金メダリストなのにファンから反感を買うことが多かった。グローブス戦はMDの接戦だったが、グローブスがヒーローでデゲールはヒールだった。
ブーイングを浴びるデゲールはグローブスに負けてから徐々に信頼を回復していった。ファンが喜ぶような打ち合いをし、ルシアン・ビュテやバドゥ・ジャックと激しい試合を重ね、評価を上げることはできたがそれが彼のキャリアを短くした可能性もある。
デゲールにもグローブスにも激しく印象的な魔法の夜があった。どちらの方がキャリアが優れていたかを議論するのは馬鹿げている。
彼らは時として人生の逆境に直面した。デゲールは怪我に悩まされ続けた。グローブスはエドゥアルド・グトネヒト戦で相手が脳出血に陥る事態を招いた。彼ら自身も敗北を味わい、試合前には血液検査が義務付けられた。
彼らのインディアンサマー(晩年)の激突は訪れなかったが、お互いのキャリアの春(初期)に戦い、互いの道を走り続け、偶然にも同時期にグローブを吊るすことになった。デゲールの引退はプロ生活ちょうど10年目のことだった。グローブスのラストはワールドボクシングスーパーシリーズという壮大なビッグファイトだった。
最後に彼らのラストダンス(再戦)はなかったが、それは我々が望んではいなかった。彼らは互いに比較できないほど素晴らしかった。両者ともに祝福されるべきだ。彼らは舞台を移して今後も活躍していくだろう。引退は両者のミッション完了を意味する。
いつか彼らが互いの功績を認め、握手し祝福する日が来るであろう。
デゲールのアマチュアのライバル、ダレン・サザーランドが自殺していた事(北京銅メダルの翌年です。27歳で自殺・・・何があったんだ。)グローブスの対戦相手、エドゥアルド・グトネヒト(カザフ→ドイツ)が脳出血で引退を余儀なくされた事
などは新事実でした。
トップシーンでボクシングを長く続けていると必ず何かの十字架を背負うことになる。そこから這い上がって今の栄光がある。
英国には近年だけでもジョー・カルザケ、カール・フロッチ、グローブスやデゲール、カラム・スミスやユーバンクJrと続く黄金のスーパーミドルの歴史がある。
グローブスはカール・フロッチに勝てただろう、WBSSでも優勝できただろう、しかしハードパンチと裏腹に一瞬の隙、打たれ脆さも致命的だった。デゲールの五輪金はいささか出来過ぎか、その勲章のアマスタイルを少しづつプロに適応させていく苦労を感じた。
両者とも健康でまだ若く、まだ強いといえる状況での引退、惜しい気もするが、後継者も登場し、英国の元世界王者であれば様々な需要、仕事もあるだろう。日本人に無縁なスーパーミドル級という階級で時代を駆け抜けた偉大なファイターに感謝、万歳・・・
https://www.youtube.com/watch?v=pdcUPBfrHNw