エリスランディ・ララ36歳、未だ現役バリバリで戦う彼は先日、体重超過のラモン・アルバレスを日頃の鬱憤を晴らすかのごとく圧倒した。
相手はラモン・アルバレスではなかった。ララはこんな男を相手にするレベルでもなかった。
不遇、焦り、苛立ち、ララは自分に対するやり場のない怒りをぶつけているようだった。そして体重すら守れず愚かに劣化したラモン・アルバレスは、姿は違えどどこか弟のカネロの面影を残していた。
腐敗
ラストラウンドの時計は90秒をきった。エリスランディ・ララはボールのように腫れたこめかみの下の目を細めた。しかし彼の足はコロナビールのロゴで飾られた青いリングを横切るグリフィンのように軽快に踊った。
対戦相手のポール・ウィリアムスは、顔面をしたたる血に息をひそめながらララに立ち向かう。身長185センチ、ララより10センチ背の高いウィリアムスがそびえ立つ。11ラウンドまではウィリアムスに大歓声が送られていたが試合はララが完全に支配していた。ウィリアムスの血まみれの鼻に容赦なく突き刺さるララの左は満員のアトランティックシティのファンの喘ぎ声となった。HBOの解説者は失望した。
ウィリアムスのタイトなクリンチを引き離し、ララがリング中央に向かってスキップする。ボロボロのウィリアムスが深紅に染まった顔面をガードしながら追いかける。ララは素早いステップインでピストンのような右ジャブを放ちウィリアムスの顔面をはじき続けた。
最後の鐘が鳴った。
ララは左手を突き上げ勝利をアピール。ウィリアムスはコーナーに戻り、顔をしかめながらセコンドのタオルで血を拭った。ニュージャージーのファンは「ポール、ポール」と歓声をあげた。ウィリアムスにとって敗北は避けられない状況だった。キューバからの亡命者、2005年のアマチュア選手権覇者のララにとってはキャリアで最大の勝利となるはずだった。
ジャッジのスコアカードが集計される。ウィリアムスはララのほぼ倍のパンチを放ったが、ヒット数は明確にララが上回った。ララの正確なジャブの半数以上がウィリアムスの頭を揺さぶった。ウィリアムスがとったラウンドはせいぜい2つだろう。HBOのベテランスコアラー、ハロルド・レーダーマンは117-111でララの勝利と結論づけた。
114-114、116-114、115-114 勝者サウスカロライナ州エイケンのウィリアムス
ノー、ノー、ノー・・・首を横に振りララは泣き出した。
HBOの解説者はショックを受けた。解説者
「アトランティックシティにはあらゆるゲームがあるが、ストリートでみかけるようなインチキがあるなんて知らなかった。」ロイ・ジョーンズJr(ゲスト解説)
「こういう事があるからボクシングはダメなんだ。ララの勝ちでウィリアムスの負け。勝者は勝者、敗者は敗者だ。頼むよ、ララが気の毒すぎるじゃないか。」試合から4か月経った今もその問題は続いている。それは無能で腐敗したジャッジに対する伝統的なボクシングの見返りだったのだろうか?
ニュージャージー州のアスレチックコミッション、アーロン・デービスは3人のジャッジに無期限の資格剥奪処分を下した。彼は採点に「不満」を覚えたが、3人のジャッジに詐欺、買収、腐敗、能力不足などの証拠はないと主張した。
それでも、エリスランディ・ララは敗者のまま、結果が変わることはなかった。
キューバからの亡命者は全てを危険にさらしてきた。人生、自由、2人の息子に再会するチャンスを求めながら共産主義のキューバの不正から逃げてきた事・・・そして今自由の地アメリカで、ララはまだ最悪の不正に悩まされていた。それはボクシングを根底から崩壊させてしまうほどひどいジャッジだった。
ロバート・エクセル(ボクシング記者)
「「ララVSウィリアムス」からボクシングファンは目を背けています。ファンは試合をみて誰が勝ったか知っています。ボクシングには風土病的で体系的な腐敗があることは間違いありません。関係者全員にこの問題に対処する勇気があるかどうかです。」
Vol.2に続く。
リゴンドー、ガンボアと書いてきたのでララの事も取り上げてみました。
やはり人生にドラマがある人物を書くのは楽しい。
先日行われたラモン・アルバレス戦で何かのベルトを取り戻したララですが、ラモンではなくカネロに復讐しているのだ、試合で訴えているのだと感じたがその想いは恐らくもう二度と届かないだろう。
続きをお楽しみに・・・
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