「The TRIPLE」のメインを務める伊藤雅雪、内山でも三浦でもなく伊藤雅雪、昨年まではマニア以外は誰も知らない男であったろう彼は、ある意味逆輸入ボクサーだ。米国で快挙を成し遂げ凱旋帰国試合がいきなり年末のメイン。多くの視聴者には初めてでも、我らがマニアにとって今回の伊藤は、ニュー伊藤雅雪だ。かつてと違うファイトスタイルでアップセットを起こした伊藤のボクシングが本当に変わったのか確認する試合なのだ。
期待の選手だったのは間違いないけれど、内山や三浦の域ではない、この険しいベルトの後継者になるとはおもわれていなかったのが真実だ。しかし堂々、進化し海外で戴冠という先輩を超える大仕事をやってのけたイケメンのHEROです。
無敗のトップコンテンダーWBOスーパーフェザー級のエフゲニー”ハッピーギルモア”チュプラコフは年末の東京で新王者の伊藤雅雪に挑戦する。チュプラコフにとってキャリア最大の戦いになります。
チュプラコフ(20勝10KO)は無敗の4人の対戦相手含む質の高いキャリアを経て、ロシアスーパーフェザー級王者になり今の地位を確立しています。その他にWBOヨーロッパスーパーフェザー級王座、WBOインターコンチネンタルスーパーフェザー級王座を獲得しています。
チュプラコフ
「トレーニングキャンプは順調でした。最初は部分的なトレーニングをしていましたが、スパーリングセッションに移行しました。いつものようにグリフィスパークでロードワークをし、コーチとともに細部のトレーニングをします。週末にはマッサージやサウナで身体をほぐします。どんなボクサーにも目標がありますが、世界王者になることが究極の目標です。私はとてもエキサイトしています。ついにその日がやってくる。でも大事なのは試合に興奮していることではなく、そのために準備をすることです。」
チュプラコフは伊藤が困難な相手である事を認めた上で、伊藤について多くを語りません。
チュプラコフ
「伊藤は素晴らしいファイターです。世界王者です。それを認め、尊重しています。ここまで、長い道のりでしたが、今ここにチャンスを手にしました。素晴らしい準備をしてきました。あとはこの試合に集中し素晴らしいファイトをするだけです。そしてもちろん、この戦いに勝利し世界王者になろうとおもっています。」
今までチェプラコフと書いていたが恐らくチュプラコフなのね。
https://boxvideo.sports-web.net/boxcaster-boxing/9611
ロシアのプロボクサーにかませはいない・・・
ユーリ・アルバチャコフからはじまるロシアプロボクシングの歴史の中で、様々なボクサーが台頭してきましたが、今も昔も誰もが皆プロになれるというわけではなく、しっかりとしたアマチュアの下地があるものだけです。
チュプラコフも150戦120勝程度のアマチュア歴があり、ロシア国内、地域で数々の王座を持っていたそうですが、世界を舞台にした活躍はわかりませんでした。
チュプラコフはよくいるロシアンファイターとは少しイメージが違います。氷のようないかつい拳で戦慄のKOの山を築くタイプではないし、小柄でリーチも短いです。ボクサー向きの体形ではありません。しかしその分、分厚く首も太く、恐らくタフで崩れにくいタイプでしょう。KOするのは難しいのではないか。古くは徳山と戦ったキリロフから最近の上位ランカーまで・・・苦戦もありましたがまずは順当、質の高い試合をクリアしての挑戦です。新王者への挑戦というのはある意味おいしいものでもあります。
そんな、本物しかいない格闘技王国から無敗のトップコンテンダーを日本に迎えての試合というのは初めてかもしれません。過保護に育てられた日本人世界王者であれば相当不利で危険なマッチメイクといえそうです。
しかし我らが伊藤雅雪は、アメリカでアンダードッグの立場で王座を奪取してきた逞しい選手です。しかも、このあたりの階級は本場米国をはじめ世界中にトップアマ出身の猛者が勢ぞろいする中、ノンアマチュアの伊藤が掴んだ勝利は日本よりも米国で驚愕、賞賛され、注目もされています。3大世界戦の米国での放映も、この伊藤に対する注目があってこそでしょう。
日本国内で、内藤律樹に際どい判定で敗れた時の伊藤は、有望な選手ではあっても、いかにも日本人的で小さくまとまった、インパクトの弱いテクニシャンでした。内山や三浦のようなパワフルさに欠けていました。
しかしそこから、海外で足りない部分を磨き、フィリピンの屈強な男たちを乗り越えて、一皮も二皮も剥けて逞しい王者になりました。このトレーニングと日本には少ないフィリピンの実力者との連戦が少しづつ確実に伊藤を変えていったと考えます。
クリストファー・ディアス戦はこれ以上ない上出来の試合でした。初回から命がけの決意を感じました。打ち合い得意な強打者に対し、一歩も引かぬどころか、相手が面喰うほど攻めてたじろかせてしまいました。
この、相手を上回る、一歩も引かない攻撃姿勢というのが、新しい伊藤に備わった魅力です。海外でベルトを獲る姿勢、国内でフェイント合戦をしていた頃とは全く別のニュー伊藤雅雪です。
今回もこのニュー伊藤雅雪のさらなる進化系、完成形が披露されるのだろうとおもわれますが、新たなスタイルが本当に根付くまでには本来長い時間がかかるもの、ディアスにはまった戦い方がそのまま別の相手にも通用するとは限りません。
そのあたりの確認と、たとえ上手く機能しなくとも伊藤には技巧派という別の側面もあるので、全てのラウンドを奪いに行く、倒しにいく姿勢はそのままに、柔軟なアイデアでこの難敵を乗り越えて、2019年には世界に羽ばたいて欲しいとおもいます。
日本人が、しかもアマキャリアのない者がこの階級の王者たることは世界的には奇跡です。
奇跡のニューヒーローが日本中に知れ渡ることを期待します。