焼け野原のダンスパートナー/ジャロン・エニスと佐々木尽

かつてボクシング界の中心階級だったウェルター級が、交渉の失敗、窮屈なプロモーション、保護的な意思決定、そしてほとんど無名に近い名前によって、粉々に崩壊してしまった。

週末に、無敗のIBFウェルター級チャンピオン、ジャロン・エニスと彼のプロモーター、エディ・ハーンズ・マッチルーム・ボクシングが、新WBOチャンピオン、ブライアン・ノーマン・ジュニアとの統一戦から撤退したことで、テレンス・クロフォードがメールで送った代理王者だけで占める階級がさらに冷え込んだ。

クリス・アルジェリ
「これはこのスポーツの悪例だ。選手たちが互いに戦っていない…どうやらこの試合を組むのは非常に難しいようだ。どうしてこんなことが起こるのか?どうしてこういう試合が組まれないのか?

今は4つのベルト、統一戦の時代ですが、選手同士が避けあっているのも見られます。無敗の選手が揃った階級があり、全員がタイトルを持っています。」

実際、168ポンド級で3つのベルトを巻いているカネロ・アルバレスと、誰もが認めるスーパーバンタム級チャンピオンである日本の井上尚弥を除けば、これらの階級間の他のすべての階級には、少なくとも3人の世界チャンピオンがいる。

ミドル級(3)、154ポンド級(3)、ウェルター級(4)、140ポンド級(4)、ライト級(4)、スーパーフェザー級(4)、フェザー級(4)バンタム級のチャンピオンは4人、スーパーフライ級とフライ級にはそれぞれ3人のチャンピオンがいる。

クリス・アルジェリ
「これらのファイター同士が戦う必要がある。一部はプロモーション、一部は交渉と市場のインフレ。ウェルター級だけの問題ではない。階級すべての問題だ」

自身の階級を制覇したいという熱望を表明している、稀有な将来有望株の27歳のエニス(32勝0敗、29KO)のケースは特に腹立たしい。

エニス
「ベルトを集めたい。ただイライラしているだけだ。後退はしたくない。私の目標は、文句なしの勝利だ。私の心構えはWBC、WBO、WBA(のベルト)に集中している」

新WBOチャンピオンのノーマン(26勝0敗、20KO)と彼のチームは、統一戦までに50万ドルが足りないと感じ、11月8日にバージニア州ノーフォークで、プエルトリコのデリック・クエバス(27勝1敗1分け、19KO)を相手に、キーショーン・デイビスの里帰り試合で初のタイトル防衛戦を行うことを選択した。

エニスは、2023年1月に3試合すべてで120対108で圧勝したウクライナのカレン・チュカジアンとのIBFベルト防衛戦に再挑戦するか、それともこの階級から逃げ出して154ポンドに移るかを決めることになる。

マッチルームとハーンがエニス対チュカジアンの賞金入札で25万ドルの差で負けた時点で、決定的だったかもしれない。エニスは11月9日に地元フィラデルフィアで試合を予定していたため、チュカジアンのP2Mプロモーションズは、自由に試合会場を選べるようになった。

クリス・アルジェリ
「エニスはスターになれるが、どれだけ優れているかを見せるためには、目玉となるダンスパートナーが必要だ。エニスは簡単にこのスポーツを制覇できるが試合に出ていない。みんな彼が誰なのか知らない」

他の2人のウェルター級チャンピオン、WBCのマリオ・バリオスとWBAのエイマンタス・スタニオニスはプレミア・ボクシング・チャンピオンズの旗の下で戦っており、現時点では試合の予定はない。

そのため、ハーンにとって、ベルトを利益と交換して、まずジョージア州のノーマン(23歳)を標的とする動機は大きかった。

ポーリー・マリナッジ
「プロモーターは投資をしなければならないこともあるが、チャンピオンと契約するときは『対戦相手は手配するから、(複数試合契約より)お金は払わなくていい』と考える。今回の状況では、『ブーツ』はマッチルームからの資金注入を受けることもできたし、マッチルームは(統一戦の)知名度を上げるためだけに損失を被ることもできた。そうでなければ、『ブーツ』のために何をするんだ?」

マリナッジはウェルター級の知名度を上げるためにシンプルな解決策を模索した。バリオス対ノーマン、エニス対スタニオニスという4人のチャンピオン全員が戦うカードだ。

マリナッジ
「ウェルター級の超大作になるだろう。分かってるよ。市場価値、クロスプロモーション、ネットワークのライバル関係で、そういうことは起きない。でも、試合をやれば、人々は観るし、どんな(カジュアルな)ボクシングファンでも、エニスやノーマンが優れたファイターだと分かるだろう。」

もう一人の元ウェルター級チャンピオン、ティモシー・ブラッドリー・ジュニアは、エニスが衰退しつつあるウェルター級から抜け出して、クロフォード、セバスチャン・ファンドラ、バージル・オルティス・ジュニア、セルヒー・ボハチュク、ティム・チューなど多くの素晴らしいファイターがいる154ポンド級に移るのが賢明だと語った。

ブラッドリー
「(ウェルター級では)エニスは何もすることはない」

ブラッドリーは、ノーマン陣営の決定について、(エニスに)負けることは分かっているので、自分の利益を最大化したいと思ったと説明した。エニスは、自分の利益から差し引いてノーマンに望みをかなえるのが賢明だったかもしれない。

ブラッドリー
「エディー・ハーンは損失を出すためにこの業界にいるわけではない。もし私が『ブーツ』のマネージャーなら、選手たちが戦いたいと思う154ポンド級に移行するだろう」

アルジェリはエニスが興味深い位置に入るだろうと警告した。

クリス・アルジェリ
「彼は体格で負けるから、打たれるだろう」とアルジェリは語った。「(154ポンドの)奴らは体格も体重も大きいし、パンチ力もある」

日本人が未到達のボクシングの中心、ウェルター級は、絶対王者のテレンス・クロフォードがSウェルター級に転向し、王座を次々に返上したので、今はその下にいた暫定王者の繰り上がりばかりになってしまった。

これは、日本の井上尚弥のバンタム級も似た構図で、Sバンタムへ移行してからバンタム級が焼け野原になってしまった。野原の草刈りを全部日本人がしてしまったので4団体に日本人が君臨する階級となったが、統一戦をしなければ意味がない。(有望な日本人ランカーもいますが)

これがそのままSバンタム級にも訪れる気がする。井上尚弥が抜けた後のSバンタム級を刈るのは誰だろうか?また4人づつ争奪戦になるのだろうか?

井上尚弥には敵わないしやりたくないけど、俺も世界チャンピオンです。
これでは拍子抜けだ。

クリス・アルジェリ
「エニスはスターになれるが、どれだけ優れているかを見せるためには、目玉となるダンスパートナーが必要だ。エニスは簡単にこのスポーツを制覇できるが試合に出ていない。みんな彼が誰なのか知らない」

これが重要で、エニスは次世代のP4Pを予感させるスケールの大きな選手だが、「ダンスパートナー」がいない。相手もすごいとおもわせる試合に出ていない。試合も少なくアピールできていない。

かつて危なげなく勝った、カレン・チュカジニアンに入札で負けて再戦するくらいなら、エニスはウェルター級を捨てて、Sウェルター級に進出した方がいいだろう。追いかけ続けた絶対王者、テレンス・クロフォードや、デカすぎて対戦してみないとわからないセバスチャン・フンドラ、人気者のバージル・オルティス、ティム・チュー、ロシアの不気味なムルタザリエフなど、今のウェルター級のメンツよりも魅力的な選手がそろっている。

そしてこの階級は絶対王者のテレンス・クロフォードでさえ苦労した。マドリモフとの試合は微妙な差しか生み出せなかった。

エニスはSウェルター級に進出した方がいいだろう。

そして草刈り場となったウェルター級に佐々木尽が挑む、絶好のタイミングだ。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
What’s your Reaction?
最高
最高
9
いいね
いいね
16
ハハハ
ハハハ
1
うーん
うーん
1
がっかり
がっかり
0
最低
最低
0
おすすめの記事