悲しみの連鎖、マキシム・ダダシェフとウーゴ・サンティリャンのリング禍が一週間で立て続けに起きた。真摯に受け止め、何かを変えていくきっかけとするのか、何も変わることなく無責任に忘れ去ってしまうのか・・・
2人のボクサーの言葉は重く、難解だ。
悲しい事故でこの世を去ったマキシム・ダダシェフと同じスーパーライト級の世界王者ホセ・ラミレスは直接ダダシェフに会ったことはないが、トレーナーのロベルト・ガルシアから素晴らしい選手であると聞いたことがある。スーパーライト級の未来のライバルとして、ダダシェフといつか戦うことを意識していた。
ラミレス
「奥さんと幼い息子がいたそうじゃないか、俺も同じだからとても心が痛むよ。ロシアから家族の幸せだけのためだけにやって来たんだ。こんな終わり方は悲しすぎる。家族のために戦っているという意味では俺だって同じさ。ダダシェフの死がボクシングに対する認識を改める機会になって欲しいとおもう。これはイージーなスポーツじゃないんだ。俺たちは自分の意思でリングに上がる。ファイターもトレーナーも限界であっても試合をストップしたくないものだ。試合後の健康よりも評判や批判を気にしてしまうから。だから願わくばファイター自身もファンもボクシング界もボクサーとはなんたるかをもっとよく考えて欲しいんだ。」
ラミレスはボクシングがお金を賭けたエンターテイメントであることをわかった上で、ボクサーがいつも命がけで戦っているという事を決して忘れないで欲しいと願う。
ラミレス
「ダダシェフに起きた不幸から人々は学んでほしい。ソーシャルメディアやその他でボクサーを批判するよりも大事な事がある。憐れみをもってファイター達を温かく見守って欲しい。ボクシングはとても素晴らしいスポーツだ。リングで戦う俺たちファイターはそこでこんな悲劇が起きるなんて思っちゃいないんだ。ファイターは皆勝利のために死力を尽くすだけだ。ファンはそのことをリスペクトして欲しい。ダダシェフの身に起きたことは本当に残念だ。みんな心の中で大切なことやモラルについて真剣に考えて欲しいとおもっている。」一方で、今週末、IBFスーパーフェザー級王座の防衛戦を控えるテビン・ファーマーは、マキシム・ダダシェフの事を憐れむことの出来ないファンの心など変えることはできないと断言する。
ファーマー
「誰かの死をきっかけにファンを目覚めさせるなんてできっこない。無関心なバカは何も変わらない。自分たちが何を話しているのかさえわかってないんだ。自分がバカな事にさえ気づいてないから責めることも出来やしない。だから俺たちに出来る事はそんな奴らなんか気にしないでただリングに上がって仕事をして家族の元に帰るだけさ。無関心なバカは決して学ぶこともない。ダダシェフのことなんて忘れるだろう。残念だけど変えることなどできないんだ。だから俺たちは自分の夢に向かってベストを尽くすだけさ。
バカなファンはダダシェフだってリスクは承知の上だったなんていう。でもそれはバカの戯言だ。俺はただただダダシェフには安らかに眠ってくれとしか言えない。そして彼の家族がこの悲しみから少しでも癒されるように。もう十分すぎるほど傷ついたんだから。」
私はダダシェフの死、サンティリャンの死、数々のリング禍を決して忘れることはない。特にダダシェフの試合は過去の断片も含め、最後までリアルタイムで見届けた。彼の表情、こういう試合、流れ、リング禍を招きそうな危険信号は確かに学んだような気がする。
しかし私もファーマーの言う(ignorant people=無知なバカ)に過ぎない。心に深く刻んでも、やがて次の試合、熱狂に関心が移り、忘れずとも思い出す機会は減ることだろう。
ファーマーの言葉の方が残酷な真実、現実だ。人間とはそういう生き物だ。
そして同時にラミレスの言うモラルやリスペクトについて今まで以上に意識して、この愛する拳闘(スポーツとは言い難い)と付き合っていく。
邦楽なんて滅多に聴かないが、この歌詞が心に染みる。
悲しみの果てに
何があるかなんて
俺は知らない
見たこともない
ただ あなたの顔が
浮かんで消えるだろう
涙のあとには
笑いがあるはずさ
誰かが言ってた
本当なんだろう
いつもの俺を
笑っちまうんだろう
https://www.youtube.com/watch?v=0WZu7L7Hjds