現役のキング、P4Pナンバーワンの大金持ち、カネロ・アルバレスより強いんじゃないかとおもわれるオレクサンドル・グヴォジクは、今静かにグローブを置く。
ロンドン五輪銅メダルから、ウクライナゴールドチームの一員として、長期王者のアドニス・スティーブンソンを破り世界王者になったオレクサンドル・グヴォジクが、アルツール・ベテルビエフとの統一戦による初黒星のみで引退。33歳
グヴォジク
「精神的には大丈夫です。今こそ何か変化を起こすにふさわしい時期だと感じています。」アルツール・ベテルビエフとの無敗同士の統一戦は決着の10回まで、1-2と採点が割れる接戦だった。10回にベテルビエフの強引なパワーにのみこまれ3度のダウンで決着した。
https://www.youtube.com/watch?v=1-aQPx2l48k
試合後、グヴォジクはトレーナーのテディ・アトラスと共に救急車で病院に直行した。脳震盪と診断され2日間入院した。しかし、試合の結果と入院は、引退には全く関係がないという。
グヴォジク
「病院に行ったのはある種の予防措置でした。同じマネージャーのエギス・クリマスの選手、マキシム・ダダシェフのリング禍、統一戦の2日前には、パトリック・デイが試合後に死亡した。テディはこれらのことを深刻に理解しているから、私を病院に連れて行ったんだ。無理やりじゃないけど行くようにいわれただけなんだ。大丈夫、問題はなかったよ。」それよりも、復帰を目指していたグヴォジクにとって問題だったのは、コロナウィルスによるボクシングの停止だった。勝ったベテルビエフは、中国のファン・メンロンとの指名試合が予定されていたが、無期限の延期となった。ベテルビエフに雪辱したいグヴォジクにとって、再戦に興味を示さず、直近の試合の見通しもたたないベテルビエフの状況をあてもなく待つことは困難だった。
グヴォジク
「コロナウィルスの影響で、ほとんど全てをゼロからやり直さなければならなくなった。タイトル戦のチャンスが全くなくなってしまった。これが一番の理由だ。そして自分は今33歳で、健康だし、将来も健康でありたいと思っている。それが二番目の理由、ボクシング以外の新しいチャンスを探すことにした。今の自分は健康で、人生の中で一番強いと感じています。健康でいられることが一番大事なんだ。私は冷静だよ、ベテルビエフとの試合に再戦条項はなかった。彼が再戦をしたがらない気持ちはわかるよ。自分が彼なら私も同じ気持ちだろう。義務じゃないし友達でもないからね。
ベテルビエフがタイトルを全て統一し議論の余地なきチャンピオンになることを楽しみにしているよ。言い訳はしない。ベテルビエフの方が良い準備をしてきたんだ。何が起きてもおかしくはない。」
少ないキャリアでも頂点を走ってきたエリートのグヴォジクにはもはやチューンナップは必要なかった。代わりにビジネスの世界でのチャンスに目を向けることにした。
グヴォジク
「10歳から22年間ボクシングをやってきて、多くの関係者との人間関係を築くことができました。何をするかはコメントできないが、いいタイミングだと信じている。私はいつもベストの相手と戦わせてくれと訴えてきた。多くのファイターがそういうけど実際は違う。彼らは悪夢の中でそれら(トップ)の男たちをみている。ほとんどの奴はライバルや強敵の名前は出すが、いざ行動するときになると「何か問題があって実現できなかった」と言うんだ。
チャンピオンになりたい、最高の相手と試合がしたいと言ったのは本心だし、自分の言葉には責任がある。もちろん、リスクを覚悟してやった。でも残念ながら統一戦で負けてしまった。これでいいんだ、だから他の何かを探すことにしたんだ。」
グヴォジク
「一度は世界王者になり、歴史に名を刻んだんだ。テディ・アトラスと出会えて嬉しい。これからも良き関係でいたい。引退の撤回?私のビジネスキャリア次第だね。今は何も言わないでおこう。今のところ何をすべきか決まってないが、絶対に復帰しないとは言わないでおくよ。」そしてグヴォジクは笑いながら付け加えた。
グヴォジク
「交渉には応じるよ、検討するけど今は(試合は)私が求めていることではないね。」
コロナウィルスの影響で個人的にも色々考えなおす時期となった。
ボクシングは再開したが、同じ熱はない。試合がいつ行われるのかもわからない。
このサイトのサブタイトルは「ボクシングは人生に似ている」だが、オレクサンドル・グヴォジクにもまたひとつ人生を教わった。
輝かしいアマチュアの記録は数知れず、プロでも無敗で世界王者に輝いた。しかも勝った相手は6年に渡り9度防衛中の現役最長王者のアドニス・スティーブンソンだ。強打のサウスポー、難攻不落王者の牙城を遂に、最初の挑戦で打ち破った偉大な新王者誕生の瞬間だった。
しかし、常にベストを求めるグヴォジクの未来は短命に終わった。対抗王者で破壊的な全勝、全KOのベテルビエフとの統一戦に迷うことなく進み、大接戦の末敗れた。
[st-card id=92207 ]決着まで85-85
なんと崇高なる、ベストオブベストの試合だったろう。
これを即断できるファイターはほとんどいない。
アドニス・スティーブンソンとは真逆の道を歩んだ。
しかし、あまりに高潔で崇高な志はこの世界では稀で、得てして、長持ち、大成はしないものだ。
現役のキング、P4Pナンバーワンの大金持ち、カネロ・アルバレスより強いんじゃないかとおもわれるオレクサンドル・グヴォジクは、今静かにグローブを置く。
17勝14KO1敗
おまけ
アドニス・スティーブンソンのその後・・・
2018年12月1日、ケベック・シティーのビデオトロン・センターにてWBC世界ライトヘビー級暫定王者のオレクサンドル・グウォジク(ウクライナ)と王座統一戦を行い、11回2分49秒KO負けを喫し10度目の防衛に失敗、王座から陥落した。その試合終了後にステベンソンは体調に異変を来たし救急病院へ搬送されて重度の外傷性脳損傷と判明したため緊急手術を受けた。その後12月下旬になって昏睡状態から意識を回復し、ボクシング復帰は難しいものの日常生活には支障のない状態まで回復した。
2020年4月11日、元妻がステベンソンの個人口座から891,000ドル(約9500万円)を許可なく引き出したとして、ステベンソンの母親が代理となって元妻を訴えた。ステベンソンと元妻は前年の12月上旬に離婚したと伝えられた。
美しく献身的にみえたのは気のせいさ、ただ意地汚い人間の姿がそこにあるだけ。