「ボクシングは科学だ」は殿堂入りのジョー小泉氏の著書だが、本当に科学なのだ。英語でよくSweetScienceと出てくるので、どういう日本語が最も適切なのか調べていたら、SweetScienceはボクシングそのものの意味であった。他では使わない、ボクシングを表すためだけにある言葉なのだ。
古くはAJ Lieblingの「The Sweet Science」が出典らしいが、それだけ高度に緻密で研ぎ澄まされた凌ぎ合いであるという親近感からそう呼ばれているのだそうです。
以下はそんな「SweetScience」というサイトの記事からの引用です。独自観点のボクシングサイトで個人的に好きなのですが、海外識者はこのように見ているという例です。まぁ、たいてい完璧なファイターに対してはこういうアラ探し、指摘をするしか他にやることがないだけなのですが。
先週土曜日、井上尚弥(18勝16KO)はWBSSバンタム級の準決勝でエマニュエル・ロドリゲスを2回でノックアウトし、先月ステフォン・ヤングにインパクトのあるノックアウトで決勝まで勝ち上がったノニト・ドネアとの決戦に進んだ。
モンスターと呼ばれる井上は掛け率通りのワンサイドでロドリゲスを圧倒してみせたが、私にはいくつか気になる点があった。
ボクシング界で最もハードなパンチャーではないにせよ、井上はパウンドフォーパウンドを議論されるファイターの一人であり、ロドリゲスに対してそのパワーを遺憾なく発揮したが、その莫大なパワーを持ってしても彼を不滅のものにすることは出来ない。
ロドリゲスとの戦いを振り返ると、井上には明らかにディフェンス面での欠陥が見受けられた。まずひとつは井上は頭を全く動かさないので、打たれる可能性がある。ロドリゲスは初回に数発のクリーンヒットを奪った。また、井上は相手に強打を打ち込むべく両手を下げている場面が多い。これまでのところ順調だが、いつか代償を払う時が来るかもしれない。
ドネアはクレバーで経験豊富なファイターだ。36歳だが最近の試合ではまだ力を十分に残していることを示している。その上、ドネアには猛烈な左フックがあり、スーパーバンタム級以下のファイトでは常にベストパフォーマンスを発揮してきた。ドネアには井上の欠点をつく能力があり、過去、左フックで決めるシーンを数多く生み出してきた。
多くの人と違い、私はドネアが井上に対するアンダードッグであるとはおもわない。井上はファイトスタイルを変えぬ限りドネアとの試合が最も危険なものになる。勢いのあるファイターを幾度もビッグパンチで眠らせた事があるドネアが井上のディフェンスの欠陥を露呈させるという可能性を否定しない。
井上尚弥のファイトはロマチェンコやクロフォード、メイウェザーのようなディフェンス重視でトリッキーなものではなく、オーソドックスの攻撃型の王道なので誰とでもかみ合うことはかみ合う。結果的に早い回のノックアウトばかりなので、防御無視の超攻撃型とおもわれがちだ。
タイソンに例えられるのは、最短ノックアウト、一撃ノックアウト、一瞬で終わらせてしまうインパクトからそう言われているだけで、中身は全然違う。たしかにタイソンは頭をよく振りアゴを守っていたが、それが彼のリズムであり訓練された所作に過ぎない。
一発ブチかまし、仕留める時、井上は確かに強引でディフェンスが雑にみえるかもしれない。しかしもう肉体的にも精神的にも勝ちかけており勝負を決める瞬間なのだ、あっという間に決めてしまう方がいいに決まっている。相手はほぼ死に体なのだから反応できない。少々返されても効きやしない。相手が怯み、効いているのに一発を警戒してあと一発が出ない、ジリジリ長引くなんてファイトよりずっといいのだ。
井上がパーフェクトで強すぎるからこそこういう指摘が起きる。
きっとこの記者は
ドネアVSダルチニアン1戦目
https://www.youtube.com/watch?v=xNlDm1-PKmI
ドネアVSモンティエル
https://www.youtube.com/watch?v=chxmYF4m2xg
のような左フックカウンター一発で相手を仕留めたシーンを必死にあてはめているのだろう。
パッキャオVSマルケス4戦目の右クロスカウンターのようなシーンを。
https://www.youtube.com/watch?v=5IlV5Iq9oAA
これしか書くことがないのはわかる。
しかし試合が起きれば、徒労記事であったことが証明される。
井上尚弥はそこまで見越した「The Sweet Science」リングの思想家だという事が。
9月には決勝が観たいな。