一瞬のチャンスでノックアウトするカシメロに、どれだけポイントがとれるかは関係がない。バンタム級のカシメロは別人と考えた方がよさそうだ。かつてのパッキャオが毎回アンダードッグでミラクルを続けてきたあの日々のように。
土曜日の夜、ゾラニ・テテはスピーディーにジャブを出し、より積極的に、彼のペースと距離で戦っているようにみえた。最初の2ラウンドはテテのペースで試合が進んでいるようにみえた。
映画のあらすじが読めないのと同様、ファイター同士の相性で何が起きるかわからないのがボクシングだ。ジョンリエル・カシメロは最近の試合ではやみくもにパンチを出さなくなったが、パンチを当てる確率が高くなっている。3ラウンド目に彼はターゲットをみつけた。テテは倒され、既に足が言う事を効かなくなっていた。
ノックダウンをさらに加え、仕留めたカシメロは、そうやって新たな3階級制覇王者の仲間入りを果たした。彼は既にライトフライ級とフライ級を制しているが、フィリピンの30歳にとってこの日の勝利は最大の扉を開く記念碑となった。トップランクとESPNが大々的に投資することになるバンタム級の最前線に到着した。
カシメロは階級屈指のスター、井上尚弥との対戦をアピールした。
井上は試合後にこのアイデアを受け入れるという趣旨のツイートをした。カシメロの未来
カシメロは長年、テクニシャンに対するクリプトナイト「アメリカン・コミックスに登場するスーパーヒーロー「スーパーマン」の弱点」であり、土曜の夜に再びそれを証明してみせた。
アムナット・ルエンロンに対する勝利と同様、明らかにスキルにギャップがある相手を打ち破ってきた。一瞬のチャンスでノックアウトするカシメロに、どれだけポイントがとれるかは関係がない。
WBOの新王者になったカシメロはWBC王者のノルディン・ウバーリに加わり、日本のWBA/IBF統一王者の井上尚弥を追いかける。井上は一度に一人としか戦うことは出来ない。2020年にはIBFの指名試合も義務となる。
カシメロが待たなければならない場合、彼はタイトルを保持し続けることができるだろうか。カシメロはバンタム級転向以来5連勝全KOしているが、波があり、試合を取りこぼす可能性を秘めている。逆に待つ間に5連続KOをさらに増やす可能性もある。カシメロがより多くの犠牲者を増やすことで井上との試合の期待値は増すだろう。
フェザー級以下のクラスで井上よりオッズで有利な者はいない。しかしオッズは結果を下すものではなく、ファンが興味を持ち続ける戦いを提供するには十分魅力的だ。
ゾラニ・テテの未来
テテは2010年にモルティ・ムザラネに敗れ、12連勝がストップした。幾多の試練を経てバンタム級で自己を確立したが、カシメロに敗れたことで、人々に2010年と同じ印象を抱かせた。テテはWBSSの準決勝を怪我で撤退する前まで優勝候補の一角とさえ言われていた。しかし結果はどうだろう?ノニト・ドネアはカシメロよりもダイナミックなパンチャーであり熟練している。確実なことは言えないが、誰もが(ドネアにも負けていただろうと)想像してしまう。
31歳のテテはゼロから全てを再建し、バンタム級タイトルの頂上決戦を舞台裏で眺めながら、出直しを図らねばならない。
これがあるからボクシングは残酷で美しい。
井上尚弥は大橋会長に、「ウバーリは拓真に託して、ジョンリエル・カシメロと戦わせて欲しい」と頼んだというような記事をみかけた。ロマチェンコと同じく、4団体統一(あるいはひとつは弟)を成し遂げ、次のステップに踏み出す姿勢は素晴らしい。
この記事は秀逸で、カシメロの特徴をうまく表現している。
確かに、過去のカシメロを観ればそのように感じてしまう。
エリートを破壊する番狂わせファイターであり、スキルがなく波がありコロコロ取りこぼすタイプだと。
しかし、そういう特徴はスーパーフライ級でジョナス・スルタンに負けた時が最後かもしれない。あの時のカシメロは今のゾラニ・テテと同様にどん底に落ちた。SuperFlyが盛り上がっていた時にそこに加わる資格すら失った。
フィジカルとパワーで局面を打開してしまえばいいという荒々しさ、雑味が彼の特徴だ。
名残りはあれど、元々20歳で世界王者になった天才だ。天然の才能だけという勢いだった。10年間トップレベル、世界各地でキャリアを積み重ねてきた。そしてバンタム級では明らかに肉体が違う。フィジカル、パワーが異様にフィットし過ぎだ。
これまでの5戦、ゾラニ・テテとの3ラウンドだけではよくわからないが、バンタム級のカシメロは別人と考えた方がよさそうだ。
かつてのパッキャオが毎回アンダードッグでミラクルを続けてきたあの日々のように。