大物とやらないと田中が強いのか、相手が弱いのか、まだわからないままだ。
WBOフライ級王者、田中恒成(15勝9KO)は歴史と未来を引き換えにフライ級を卒業する。無敗の3階級王者は、WBOフライ級王座を返上、王座は空位となった。
田中
「スーパーフライ級にアップし4階級制覇を目指します。」一か月にも満たない時期にWBOは田中に対して「スーパーチャンピオン」の称号を与えたばかりだった。長期王者や複数階級王者、エリートレベルの卓越した才能だけに与えられる、選択試合を優遇する特権だ。
田中の3階級制覇はP4Pナンバーワンのワシル・ロマチェンコと並ぶ最短記録だ。田中が4階級制覇を成し遂げ、男女通じて世界最速の4階級王者になる時間は十分ある。
24歳の田中が、同国の4階級王者、井岡一翔との対戦をアピールしているのは秘密事項ではない。未来の殿堂入り王者、井岡一翔は昨年6月にその偉業を成し遂げ、大晦日にタイトルを防衛している。同一カードで田中は防衛戦を行い、ウラン・トロハツを3回で完全KOした。
井岡は田中のアピールに対し、自身はWBC王者のフランシスコ・エストラーダとの対戦を求めている。エストラーダ陣営は当初WBA王者カリ・ヤファイとの対戦を目論んでいたため、井岡との対戦には無関心だったが、エストラーダの怪我により流れ、ヤファイは元4階級王者のロマン・ゴンザレスと戦うことが決まった。
田中の希望はスーパーフライ級のトップファイター全てを一掃することだ。
田中
「この階級には多くの強いファイターがいるので、自分はまだ全体的なスキルを向上させる必要があります。しかし私は次に王者の誰かと戦いたい。井岡もエストラーダもスーパーフライ級のトップ選手ですからリングで向き合いたい。」田中が返上した空位のタイトルは、フィリピンのジエメル・マグラモ(24勝20KO1敗)とプエルトリコのアンヘル・アコスタ(21勝全KO2敗)の間で争われる可能性が高い。
2017年、アコスタと田中はライトフライ級で対戦し田中が勝っている。その後田中がタイトルを返上し、アコスタが王座に就いた。2020年、歴史は繰り返される。
田中のスーパーフライ級転向
魅力的な王者の多い階級への挑戦は大いに楽しみだが、最短記録で無敗の田中恒成にはやり残した未知の課題がたくさんある。
フライ級は人気や知名度こそ低いが
モルティ・ムザラネ
アーテム・ダラキアン
フリオ・セサール・マルチネス
という強い王者が揃っている。その誰とも戦わずに返上されてはフライ級で田中がどの程度だったのかはわからないままだ。記録はすごいが、木村や田口と戦ってきた国内対決で世界にアピールするものではない。際どい、冴えない試合もあった。
大晦日のウラン・トロハツ戦で、田中は減量が上手くいけばかなり動きがいいことや、まだまだ増量の余地があることを証明したが、トロハツは強敵ではなかった。
減量苦から開放され、コンディショニングが課題であった田中はスーパーフライ級で益々研ぎ澄まされるだろう。彼は強い、スーパーフライ級でも通用すると確信しているが、井岡やエストラーダの名前を出すのなら、今総スカンな
ドニー・ニエテス
シーサケット・ソー・ルンビサイ
あたりとやってみてはどうだろう?
ニエテス戦で井岡との力関係含め、全てが明らかになる。
そのくらいの大物とやらないと田中が強いのか、相手が弱いのか、まだわからないままだ。
井上尚弥と違い、海外試合経験のない田中は世界的には無名といえる。無名のままここまで成功したファイターは稀だ。世界の誰もが、どうなのよ、ミニマムのワンヒンのように、レベルが低いだけ、作られた記録なんじゃないかと疑っているはずだ。
その実力を世界にアピールする時だ。