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失われた2秒の影/(TNT=爆弾)メルドリック・テーラー Vol.2

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サンダーVSライトニング、フィクション以上に劇的な試合となったこの名勝負、オールドファンには永遠のマスタークラシックだ。チャベスの連勝記録が遂にストップする瞬間。憶えている、決して忘れない。なぜあのような結末となったのか、そこには様々な伏線があった。

「Thunder meets Lightning」運命のゴング、ナチュラルスピードで大きく上回るテーラーがフリッカージャブを突きリングを縦横無尽に動く。彗星のようなテーラーの拳はチャベスのガードの隙間を容易に突破、92発のパンチの内33発をヒットさせた。それに対しスロースターターのチャベスは27発のパンチで9発ヒットという幕開けとなった。

チャベス陣営のトレーナー、クリストバル・ロサス
「反応速度をあげよう。2発のジャブを先に打って左フックに繋げよう。距離を潰していこう、イライラ、興奮するな。」

一方のテーラー陣営のジョージ・ベントンとルー・デュバはテーラーのパフォーマンスに満足し、このままのペースを維持するよう指示した。

ジョージ・ベントン
「ロープに下がらないでよりコンパクトに行こう。」

ルー・デュバ
「いいぞ、そのスナッピーなジャブをもっとみせてくれ。」

続く2回もテーラーが快足をみせ、チャベスの出鼻を挫くパターンが続いた。チャベスの焦りは明白でテーラーをロープに追い込もうと試みるも空回りに終わる。

チャベスは右ショートをリードに用い、キャンプで負傷していたテーラーの下唇を切り裂く。しかしテーラーはボディやアッパー、左フックをチャベスの顔面に返し、傷つけられた報復をした。しかしテーラーの流血はチャベスのパンチにより説得力を持たせた。残り20秒で放たれたチャベスの右フックがテーラーのディフェンスを突破し、テーラーははじめて自分の顔を拭い、目を瞬かせ、動揺の色を示した。

当時誰も知らなかった事実として、このパンチでテーラーは左眼の下の眼窩骨を骨折していた。3ラウンド開始時にテーラーは顔面の感覚に異常を感じ、頭を左右に振った。

手数、攻勢を増すテーラーのコンビネーションを前にチャベスはディフェンスに忙しいが、突破口としての右リードを忘れなかった。チャベスのパンチが単発であるのに対しテーラーのパンチは素早いコンビネーションで、手数、ボディで大きく上回った。テーラーは自信を持って序盤を制し腕を上げて高らかにコーナーに戻った。

3回を終えて両者のパンチ数は287-116。ヒット率も同様にみえた。

目まぐるしいスピードのコンビネーションがあらゆる角度からチャベスを襲う。ディフェンスの反応もテーラーがいい。チャベスの単発のパンチは時折ヒットしたが、ペースは益々テーラーに傾いていった。しかしテーラーの身体は確実にその代償を払っていた。

ルー・デュバ
「いいぞ、お前は今美しいボクシングをしている!」

デュバはテーラーの切れた下唇を拭いながら興奮して叫んだ。カットマンのエース・マロッタはテーラーの腫れた左目にアイスバッグを当てていた。76戦、21年のキャリアを積んだ元ボクサーのベントンはテーラーのハイペースを懸念していた。

ベントン
「少し落ち着いて冷静になろう。そんなに飛ばさなくても大丈夫だ。」

おそらくこの時、2年前にパーネル・ウィテカーがホセ・ルイス・ラミレスに判定負けした記憶が陣営の脳裏によぎったのかもしれない。興奮したルー・デュバがテーラーに指示を加えた。

ルー・デュバ
「チャベスを置き去りにするにはパンチをたくさん放つ必要がある、メル、ラウンドを盗まれるのなんて嫌だろ、聞こえる?」

5ラウンドは展開が変わり、肉薄したラウンドとなった。チャベスが強打を効果的に当て、特にテーラーのボディを強烈に捉え始めた。残り1分でチャベスは今まででベストといえる左フックでテーラーの顔面を揺らしあっという間にゴングを聞いた。

ホセ・マーティン(チャベスのカットマン)
「負けている。これ以上ラウンドを失うわけにはいかない。テーラーと同時にパンチを出せ、見過ぎてはいけない。フリオ、テーラーが倒れるまでパンチを打ち続けろ。」

チャベスが巧妙なのは常に右をリードで効果的に用いていた事だ。テーラーは手数が減り、スピード、コンビネーションの輝きを失いつつあった。足が止まり、チャベスにとって攻撃しやすい状態になっていた。「フリオ・セサール・スーパースター」は蘇り、ゴングが鳴ると完全に主導権を奪ったとアピールした。

テーラーのダメージは増す一方だ。アイスバッグを両目に当て、口から流れ出る血をタオルで拭った。ベントンはテーラーに再度速すぎるペースで戦わないように忠告した。

テーラー自身は序盤と同じように後半も懸命に戦い、ベントンの助言を聞く余裕がなかった。テーラーのパンチのボリュームをとるか、チャベスのパンチの効果をとるか、互いに譲らない激しい打ち合いが続く。試合巧者のチャベスはクリンチやホールドの際にもテーラーの体に上手く寄りかかり、相手の体力を消耗させていった。

しかしチャベスに流れが傾きかけた8ラウンドにメキシカンは突然アウトボクシングに切り替えた。フットワークを使い、テーラーの周りをステップし始めた。テーラーは楽になって息を吹き返しパンチを繰り出した。チャベスはディフェンシブに対処しただけだった。試合を通じ最も静かなラウンドとなった。

ホセ・マーティン(チャベスのカットマン)
「フリオ、お前はただ突っ立ているだけだ。家族のためにハートをみせろ、神の愛のため、頼むからお前の全てをぶつけてみろよ。」

9ラウンド、チャベスにとって良いニュースは再びアクションを上げたこと、悪いニュースはテーラーもそれをやったこと。テーラーはダイナマイトのようなコンビネーションでチャベスに襲い掛かったが、27歳のベテランはこの小さな危機を乗り切り、自分の仕事を再開した。

その仕事が実を結び、目には見えづらくとも深刻なダメージをテーラーに刻んでいった。テーラーはその痛みに情熱とスピードで耐えるだけだった。

チャベスのコーナーは活気を帯びてきた。ようやく明確にペースを掴み、仕上げ作業に入る準備が整ったと感じたからだ。

ホセ・マーティン(チャベスのカットマン)
「倒しにいこう、テーラーは弱っている。家族のためにノックアウトしようじゃないか。」

10ラウンド、テーラーは本能で戦い、序盤素早く動いた。しかし中盤からチャベスのペースとなり、強烈なフックを3発食らった。苦悶のテーラーの表情は2つの事を物語っていた。1つ目はチャベスの決意を固めること、2つ目はなんとしても屈しないというテーラーの強い願望。

チャベスのコンパクトで粘り強い攻撃でテーラーはボディが効いて前屈みになっていた。テーラーの脚はもはやバネを失い、倒壊の危機が迫っていた。問題は序盤から試合全般を通じて圧倒的にリードしてきたポイントを守りラストの鐘を聞くことが出来るかどうかだった。テーラーにそこまでの余力が残っているかどうか。ラストの鐘が迫るまで、あまりに多くの罰を受けてきた。

ラリー・マーチャント(HBOアナリスト)
「残りの2ラウンドが正念場だ。テーラーにとり最も厳しい試練が待っている。決して諦めることを知らない偉大な王者、チャベスに対しどんなに苦しくともテーラーが立っていられるかどうか。」

11ラウンド、あと少しで試合が終わるのを知っている2人のグラディエーターは怒りと目的を持って一歩も譲ることなく意地の打ち合いを展開した。もはやテーラーのスピード以外、全ての抵抗はチャベスにとっては厄介ではなくなっていた。1秒ごとにドラマが生まれベルが鳴った。

この交響曲はラストラウンド3分を残しどのような結末に向かうのだろうか。

最後のインターバルで、チャベスは自分の歴史的な連勝記録が危機にさらされていることを知っていた。ここまでの採点は

108-101
107-102
105-104

全てテーラーがリードしていた。
チャベスが記録を守るためには何か魔法を生み出す必要があった。目の前には前のラウンドに続いて、セコンドを間違えたテーラーが彷徨っていた。テーラーは自分のコーナーがどちらかもわからないほどの状態だった。

その姿がチャベスに魔法を生み出す力を与えた。

Vol.3に続く

ラストラウンドを残し、続きとさせていただきます。
なぜなら最後に、ある理由、ドラマがあったからです。

深く考えさせられる衝撃のラストラウンドをお楽しみに・・・

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プクー

原始的で単純明快なスポーツです。生涯一度の敗北、無敗で引退したボクサーもいます。負けても次頑張りますというスポーツとは違う残酷さ、無常さが好きです。

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