「ボクシングと人生は永遠の学び」・・・これはキューバ人トレーナー、ペドロ・ディアスの話に出てきた言葉だがこうして記事を書いているだけでも学びが多い。スーパーライト級歴代屈指の世界王者コンスタンチン・ジューは、自らを「平凡」と例え、「神からの贈り物」というボクシングの才能を否定した。
[st-card id=83077 ]ジュー
「「平凡」だからこそ、人より多くの練習、準備をしてきました。懸命に努力せずに成功を収めることはできません。贈り物を信じることもできません。「神からの贈り物」という才能は結局だめになるのです。」
今まで書き散らかしてきた中で、ふと思い出す、心を掴んだ言葉をご紹介します。
ナシーム・ハメド
「ジムのすぐ近くに住んでいて、中に入るとそれが自分のスポーツだと気づきました。雰囲気、ボクシングの動作、手足の動き、技術がすぐにわかりました。打って打たれない芸術、私はそのコツを知っていました。」
「一流のファイターが示すサインは、パンチを打たれた時、どんな打たれ方(打撃の衝撃を抑える)をしたのか、またはダウンした時どのように立ち上がり、立て直していくかだとおもいます。」
[st-card id=72501 ]まさに「神からの贈り物」を授かった才能だとおもうが、子供の感性でそれを”見つけた”のだろう。子供の柔軟な感性は、水を得た魚のように、自分の世界、生き生きと活躍できる居場所をみつけ、ひたすらに特技を磨いていった。もちろん、特技が特技であるために努力し試行錯誤し究極にその技を研ぎ澄ませていった。
たぶんハメドのような身体能力を持ちながら、まだ自分の居場所を”見つけていない”子供はたくさんいるのだろう。
マイキー・ガルシア
「7人兄弟皆ボクシングをしていたけど、対戦相手がいないから相手をして欲しいと言われたんだ。俺はボクシングのトレーニングをした事もなくアマチュアのライセンスもなかった。家族の伝統からボクシングは少しだけ知っていて、やってみると簡単で楽しかった。
自分がボクサーになるとはおもっていなかった。それは兄弟の進む道であり親父の仕事だった。ロベルトやフェルナンド・バルガスが看板スターだった。俺はただ観戦するだけ。他のスポーツもしてなくてテレビゲームに夢中だった。」
マイキーの興味に関わらず、彼は天才であり、ボクシングの達人だった。スペンス同様、天から授かった才能に気づきそれを利用することにした。
マイキー
「俺にとっては簡単だったから時々退屈だった。テレビゲームと同じさ。レベルが上がってクリアしたらそのゲームは止めて次の挑戦しがいのあるゲームを探す。」
スペンスへの挑戦には敗れてしまったが、個人的には今でもマイキーのボクシングは究極に研ぎ澄まされたものだとおもう。シンプルにして究極。いつも同じファイト、無駄、ブレがない。コンマ何ミリのゲームをクリアする匠の領域、感性を持っている。それでもデカい敵には敵わないという現実も教えてくれた。スペンスに負けるまで、マイキーは本気でヘビー級にも勝てると自分を信じていたのではないか。突破者、ゲームの達人だから。
クリス・ジョン
[st-card id=82463 ]「生活は大変でした。貧乏で父はボクシング以外は何も与えてくれませんでした。それが父親に対する想いでの全てですが、若いうちからボクシングを通じて社会の規律を教えてくれたので私の人生の柱になりました。父には大きな借りができました。
成功するのにエレベーターは使えません。階段を上る必要があります。」
アマチュアエリートでもない。強そうに見えない。インドネシアというボクシング貧国、しかしデリック・ゲイナーやマルケスにも勝った。
内山高志
[st-card id=68280 ]「ボクシングは趣味でやっていたから減量もしたくないし、好きなようにやりたかったです。「家族のため」とか、「自分が勝たなかったら家族が」とか、いろいろありますけど、それを言ったら、ほとんどのボクサーは家族を支えてないのではないでしょうか。
むしろ、家族のためを思うのなら、いつ死ぬか、怪我をするかも分からない危険なボクシングは、やめたほうがいいと思います。だから、好きな人がやるべきです。僕は、ボクシングに対してはそこまで深く考えていなかったです。
もちろん絶対に勝たなければいけないという気持ちでやっていましたが、それは究極の趣味なので、絶対に負けたくないという気持ちが強かったのです。だから、練習もサボったことはないし、常にきつい練習で追い込んだのも、1対1の勝負事に負けたくないという気持ちだけでした。」
[st-card-ex url="https://news.yahoo.co.jp/byline/kimurayu/20190812-00137989/" target="_blank" rel="nofollow" label="" name="" bgcolor="" color="" readmore="続きを見る"]1対1の勝負事、それは自分の究極の趣味だった。
こういうスタンスでボクシングというものを捉えた方がいいのかもしれない。大事な趣味ではだれにも負けたくない。だからキツイ練習で自分を追い込む。ボクシングとは人生を背負うものではなく趣味をかけたプライドだ。私ですら大手メディアのサラリーマンには負けたくない。ボクシングへの愛も情熱も。
井上尚弥
[st-card id=71521 ]まわりくどくてごめんなさい。長くなりますがこれを紹介したかったのです。
井上尚弥
「海外でも日本でも、自分がいいなと思った選手の真似はします。やっぱりフォームが大事ですね。マイキー・ガルシア(アメリカ)とか基礎がある選手って、なかなか崩せないじゃないですか。その基礎のある選手を崩すのは、アメリカ人の独特のバネを持ったテレンス・クロフォードみたいな選手だったりしますけど」
「基礎のベースさえしっかりあれば、そこから崩したボクシングをすることはできる。でも、元々崩れてる選手が基礎的なボクシングをしようとすると、それは難しいですね」
(練習の中身について)
「練習をやってる時間は同じなんですよ。ジムに入って、まず最初にシャドーを5ラウンドくらいやる。でも、その5ラウンドを、毎日、自分で意識してどうやるか。アップのシャドーなのか、確認のシャドーなのか。毎日5ラウンドをやって、意識してやってる選手とそうじゃない人ではそれが1年間になったら、すごい開きが出る。それに、なあなあのシャドーをやり続けてしまうと、みんなジャブとワンツーが打てなくなっちゃうんですよ。自分はジャブとワンツーですよ、ほとんど。基本的に、それがしっかり打てればチャンピオンになれます」
試合中に休むときもジャブなんですよ。で、攻めるときもジャブなんですよ。深いですねー(笑)。気持ちは休ませてるけど、攻めてますね。で、やっぱりジャブですねー(笑)」
「でも、才能があったら、デビュー戦からそういう動きができるんじゃないですか。自分で、こういうふうにしたらいいんじゃないかって考えてるから。デビュー戦から比べて、戦い方はガラッと変わってるじゃないですか。それは自分で変えようとしてきたし、変えるにはどうしたらいいか、練習ですごい考えてきましたから」
「昔、ドネアが言ってたんですけど、『日本の選手はミット打ちの型がそのままスパーや試合に出るからやりやすい』って。むしろ、日本の選手はそれしかできないんです。だから相手がサウスポーになったらやりづらいとか。ただ打ってるだけの練習しかしてない。出されたミットを打つ。だから、相手がサウスポーになったときに自分の引き出しがない。もっといろいろ考えてできるはずなんですけどね。足の位置とか戸惑うのも、自分には意味がわからないです。
これは自分が感覚でやっちゃうから、こういう考えなんですよね。できない人の感覚、その人の悩みとかもあると思う。でも、相手はミットじゃないから。サンドバッグじゃないから。実際に目の前にいるのは何をしてくるかわからない人間ですから。だから戸惑っちゃうんですよね、たぶん。
シャドーのフォームがきれいな選手とかいるじゃないですか。でも、実戦練習になると、そのとおりにはいかないとか。それはイメージトレーニングをしてるかどうかですね。ただ漠然とやってるのかどうか。それで全然違います」
「足の位置取りとか、めっちゃ考えてますよ。みんなできないのか、それともできるようになる練習をやってないのか。ジムの後輩の桑原(拓)はそれができるんです。練習を見ていても、「考えてやってるな」って思う。シャドー見てもサンドバッグ見ても、いろんなことをやってるなって。でも、できない選手は考えてやってないですから。自分ができるコレ(と両手で小さな輪をつくる)しかやってない。スパーリングでも、テーマを持ってやってない選手が多いと思います」
「ボクシングは本当にバカじゃできないです。勉強がいくらできて頭が良くても、瞬時にキレる頭がないとできないです。あとは観察力が大事ですね。普段は、観察したいなと思った人は観察しますね。この人、ちょっと違うなっていう人がいるじゃないですか。どう考えてるんだろうって読めない人。そういう人は観察しますね。でも、そんなにジロジロ見るわけじゃないですけど(笑)」
「ロドリゲス、気持ち弱いですよって、だいぶ前から言ってたじゃないですか。本当に気持ち弱かったじゃないですか。(昨年、ロドリゲスの1回戦勝利後にリング上で対峙して)目を見て、一瞬でわかりました。次の対戦相手が目の前にいてあの表情は……。
それに、気持ち強いやつが、あんなに首振らない(5月にダウンを奪った際のロドリゲスのアクション)ですよね」
──でも、本当に無理だったんじゃないですか?(笑)
「本当に無理だったのかなぁ(笑)」
──でも、3度目のダウンの後、よく立ったなと思います。
「たしかに! でも、セコンドが怖かったんじゃないですか。アイツが(笑)」
※試合前の公開練習でのひと悶着を起こしていたウィリアム・クルス・トレーナーのこと
どのコメントも深くて削れないから長い引用になりましたが、やはりファイトだけではなくボクシング脳が相当いいなと感心させられる。
P4Pの話題に出るボクサーにはマトリックスなロマチェンコや身体能力のクロフォードなど個性の際立った選手が多い中で井上尚弥は何かが秀でているのではなく全てに整ったファイターだ。トリッキーな部分は何もない。ブレないマイキーの系統だ。
このインタビューをひとことでまとめれば「観察力」だろう。いいな、これはアリだなという部分を取り入れて自分のものにしてしまう。何気ない所作、動きであっても目的や意図を考えている。こういう領域ならば相手が右だろうと左だろうと関係ないのだろう。
その鋭い観察眼はボクシングだけでなく人間性まで見抜いてしまう。
ロドリゲスの気持ちの弱さは、モロニー戦後にリングで対峙した時から言っていた。気持ちが弱いのか、井上を恐れていたのか、ナーバスなのか、そう演じていたのかはわからないが、ズバリそういう結末になった。
ボクサーとしてどこまでも興味深く、奥が深い話だなとおもわずにはいられない、各々のお言葉でした。